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2人の生涯を書いていたら、キューバ、中米、南米史の物語に

海堂 そうです。チェ・ゲバラは医学生時代に南米を放浪し、医師になってからも放浪の旅を続け、中米のグアテマラで反革命にあい挫折しました。ここまでをポーラースター・シリーズの最初の2巻『ゲバラ覚醒』と『ゲバラ漂流』で書きました。その後、メキシコで亡命してきたフィデル・カストロと出会い、キューバ革命に参加します。最新刊の第3巻『フィデル誕生』で、フィデルの父アンヘル・カストロを通じ米西戦争と、若き日のフィデル・カストロを書き、現在、第4巻『フィデル!』を週刊文春で連載中です。ここでハバナ大に進学し、政治に目覚めたフィデルがモンカダ兵営襲撃事件を起こし、歴史的な自己弁護演説「歴史は私に無罪を宣告するだろう」を経てピノス島収監、恩赦、メキシコに亡命するまでを描くつもりです。こんな風にして、チェ・ゲバラとフィデル・カストロの生涯を書いていたら、いつの間にか、キューバ、中米、南米史の物語になっていたんです。

パドゥーラ 歴史は、私たちの財産です。海堂さんのシリーズは、興味深い取り組みですね。日本人の海堂さんが描くフィデル伝はアリだと思います。ぜひ読んでみたいですね。キューバ革命に関しては多くの資料が存在します。かつ、スペイン語の資料も多いので情報収集に苦労されているでしょうね。資料は何冊くらい読みましたか?

海堂 キューバ革命に関しては日本でも1970年代に多くの書物が訳されていて、日本語文献だけでも分析には難儀しているのが実情です。キューバ関連で400冊ほどですが、周辺資料も含めると700冊は超えています。古本市めぐりをしたり中南米の取材旅行で集めた資料は全部で1700冊を超えました。私はスペイン語ができないのですが、ハバナの国立図書館で当時のボエミア誌を閲覧、コピーしたり、キューバの歴史研究所でいただいた大量の貴重な資料を見たりして、できるだけ当時のキューバの雰囲気を生で体感しようと努めています。

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©橋本篤/文藝春秋

パドゥーラ それだけ読まれているのであれば、キューバ革命のプロセスについてかなり正しく理解されているはずですね。そのうえで別の視点から、また多角的に見直したりすることで、歴史のシーンを深く描こうとしているのでしょう。私たち作家は、歴史を描くスピードを上げることもできる。腕の見せ所ですね。

 1番難しいのは、異文化のリアリティを理解することです。ある作家が「キューバ危機の時代、キューバ人はイヌを道の真ん中で調理して食べた」と書いたんです。それを読んだとき、「この人はキューバを全く理解できなかったんだ」と思いました。キューバ人は当時、ネコは食べたけれど、イヌは食べていませんから(笑)。

海堂 今のはパドゥーラさん流のジョークで、もちろんネコも食べていないわけですが、そうやって聞き書きすると「キューバの経済危機の際、イヌは食べなかったがネコは食べた」なんて、まことしやかに広がってしまいますからね。

パドゥーラ おお、それは注意しないといけませんね(笑)。