「次の株主総会で、ヤフーはあなたの取締役選任に反対する」
――アスクル側は断った。
「はい。アスクルはBtoB、ロハコはBtoCと業態は違いますが、倉庫、物流網、マーケティングなどネット通販のインフラの部分の多くが共通化されています。そこからロハコだけを切り出す、というのは現実的ではないし、仮に切り出した場合、成長力のあるロハコを失うことはアスクルの(ヤフー以外の)株主の利益を毀損することになる。そう考えてお断りしました」
――それで事実上の「解任」に。
「6月27日に川邊社長が社員弁護士を連れてお見えになり『次の株主総会(8月2日)で、ヤフーはあなたの取締役選任に反対する。その前にお辞めになったらどうか』と告げられました。(アスクル株を11%強保有する)プラスもヤフーに同調しているので、このままだと株主総会で選任されないことになります」
――ヤフー側はアスクルの業績不振を理由に挙げています。
「2018年5月期と2019年5月期は、営業利益がそれまでの半分に近い41億円、45億円に落ち込みました。しかしこれは理由がはっきりしていて、一つは2017年2月に発生したアスクルロジパーク首都圏(埼玉県入間郡三芳町)の火災です。202億をかけて建設した物流の要が全焼し、アスクル、ロハコのビジネスに大きな支障が出ました。
もう一つは、いわゆる宅配クライシス。人手不足で宅配会社が運賃を大幅値上げしたことで、約40億円のコスト増が発生しました。しかし、火災の件は吹田市に5万坪(甲子園4・5個分)の巨大物流センターを作り対処しました。自社配送網の整備で宅配クライシスも何とか乗り越え、今期は88億円の営業利益を見込んでいます」
1大株主の意向で手続きをすべて無効にして良いのか
――ヤフー側は岩田さんの経営能力に問題があるとも主張しています。
「上場企業のアスクルには、独立取締役らで構成する指名・報酬委員会(元東京証券取引所社長の斉藤惇氏らがメンバー)があります。7月3日の同委員会は私の再任という結論を出し、それを取締役会で決議しました。45%を保有しているとはいえ、一大株主の意向で、こうした手続きをすべて無効にして良いものでしょうか。ガバナンスが形骸化し、何でも多数株主の思い通りになるのでは、少数株主の利益が守られなくなってしまいます」
――ヤフーが心変わりして株主総会で岩田さんの選任に賛成したら、どうしますか。
「ヤフーさんとの信頼関係は崩れてしまったので、業務資本提携を解消する方針は変わりません。ヤフーが保有している45%の株を買い取ることが、アスクルの次世代の社員のためにやるべきことだと考えています」
――買い取るには資金が必要です。
「そこは投資ファンドや新たな事業パートナーなど、あらゆる方策を検討します」