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“クビを覚悟した男”中日・福敬登 ヤクルト村上に打たれたホームランで彼は変わった

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/08/21
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「今はワクワクしています」

 京セラドームでも福の観察は続く。

「オリックスの比嘉(幹貴)さんのフォームを見て、アッと思いました。テイクバックが小さい上にサイドスロー。これはもっと見づらいんじゃないかと」

 翌日、阿波野コーチが近付いてきた。

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「僕の耳元で『昨日の比嘉、見づらかったなぁ。腕を下げるのもありかなぁ』とささやいたんです。全く同じことを考えていたので、これだと。その日からキャッチボールも腕を下げたんです」

 試行錯誤の末、クロスに構え、テイクバックを体に隠し、腕を下げ、スパイク1足分インステップして投げるフォームに辿り着いた。それが実を結んだ試合がある。

 6月20日。ナゴヤドームの中日・西武3回戦。6回表に福は金子侑司、栗山巧から連続三振を奪い、7回表も投げた。

「秋山(翔吾)さんをファーストゴロ。源田(壮亮)をライトフライ。外崎(修汰)を外からのスライダーで空振り三振。全て配球の意図通りに投げられました。西武打線を完全に抑えたのが自信になりました」

 マウンドからベンチまでの足取りは軽かった。LED以上にまぶしい光が差していた。体中を充実感が走った。

「ゾンビですかね」

 死んでも、死んでも、蘇る。目を見開き、耳をそばだて、改良と工夫を重ね、必ずパワーアップして蘇る。弱気の虫と同居していたシャバーニはこの1年で貪欲なゾンビと化したのだ。

「どこか去年までは打たれたら、どうしようと思っていました。今はワクワクしています」

 左腕は不敵に笑った。Kill or be killed。福は今日も牙を研ぎながら、ブルペンという檻の中で静かに出番を待っている。

◆ ◆ ◆

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