広岡達朗が語る高津新監督へのメッセージ
元々、野村克也氏は大の巨人ファンだったことは有名な話だ。しかし、テスト生としてパ・リーグの南海ホークスに入団したことで、本人曰く、「常に日陰を歩み続けた」プロ野球人生を過ごすこととなった。長嶋茂雄に対する執拗なライバル心は、その怨念の表れなのだろう。一方の広岡さんも古巣・巨人に対しては愛憎相半ばする思いを抱いているのは有名な話だ。当時の川上哲治監督との不和について、本人が多くの書籍で赤裸々に語っている。
つまり、ノムさんも広岡さんも、「打倒巨人」の思いは一緒なのである。僕は広岡さんに「巨人の監督になりたいとは思わない」理由を尋ねる。答えはシンプルだった。
「だって、巨人の監督だったらいつでも勝てる。ずーっと勝っていたって面白くないじゃない。弱いチームを強くするのが男というものでしょう」
僕は内心でニヤリとする。なぜなら、これも野村さんとまったく同じ答えだからである。口ではいろいろ言いながらも、内心で抱いている熱い思いは両者共通なのだ。冒頭に掲げた「巨人コンプレックスの払拭」は、実は広岡さん自身が望んでいたことではなかったのか? だからこそ、オーナーに直訴してまで海外キャンプを実現させたのではないか? 僕はそんなことを考えていた。
先に挙げた「歴代優勝監督の系譜」で言えば、来季からチームを率いることになった高津臣吾監督は、「若松・真中ライン」に相当するだろう。生え抜きの高津監督はどんな野球を見せてくれるのだろう? 以前、この文春野球でも書いたように「野村の奥深さ+若松のおおらかさ+ギーエンの自由さ」はどんな形となって結実するのだろう? 最後に広岡さんからの厳しくも温かく、そしてやはり厳しいメッセージを紹介したい。
「監督というものは、“オレに任せろ。言う通りにすれば必ず勝てる!”と言えなければ指導者失格でしょう。“選手の自主性に任せる”なんて指導をしていたら、その監督の値打ちはありませんよ」
広岡さんの言葉を「古い」「時代は変わった」と切り捨てるのは簡単なことだ。しかし、歴戦の名将の言葉の重みをいま一度噛み締めることも大切なのではないか? 高津新監督がどんな野球を見せてくれるのか? その手腕に、僕は期待する。そして、これから書くつもりの「歴代優勝監督の系譜」に、「高津臣吾」という名前が連なることを、僕は切実に希望する。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム 日本シリーズ2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/14454 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。