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「カフカの理屈で語れぬ世界を面白がってもらいたい」ケラリーノ・サンドロヴィッチ

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(劇作家・演出家)――クローズアップ

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ケラリーノ・サンドロヴィッチさん

 もし、カフカの幻の長篇第4作が発見されたとしたら? ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの書き下ろし新作は、そんな着想から始まっている。

「元々、カフカが大好きなんです。カフカの小説は、何も提示していないというか、主張や風刺のうっとうしさがない。カフカの心の目に映っていたものがただ描かれる。作者の意図が明確に飲みこめる、ということがありえない作家だと思います。矢印がてんでバラバラというか、読みたきゃ読め、みたいな感じが心地良いし、面白いんですよね」

 カフカは生前、『変身』など短篇しか発表しなかった。死後、彼の「原稿を燃やしてくれ」という遺言に従わなかった友人のマックス・ブロートによって、長篇3作(『城』等)が世に出たが、すべて未完だ。

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「舞台は現代から始まり、幻の“第4作”の原稿を見つけた男が本を出版しようとするのですが、中盤で1920年代中頃の世界に迷い込む。一方でその“第4作”自体の物語がメインとなって展開されるのですが、そちらは多部未華子さん演じるカーヤという、戦地に赴く恋人と列車の中ではぐれてしまった女性が主人公の奇妙な冒険譚です。実はカフカの作品には、女性が主人公のものはないんです。でも、もしカフカが長生きしていたらそういう小説もあったかもしれない、と考えました」

 この2つの世界が混ざり合い、物語は進んでいく。

「このところ、わかりやすい演劇を多く手掛けていたのですが、元々はナンセンスコント出身なので、久々に馬鹿げた笑いと混沌とした世界の共存に立ち返っています。カフカといえばわかりにくい、読みにくい、と及び腰になっている人も多いかと思うのですが、怖がらないでほしい。まず設定からありえない、ふざけた試みです。支離滅裂でヘンテコリンな舞台を全力で作っているので、クスッと笑ってもらい、理屈で語れぬ世界を面白がっていただけたらと思います」

ケラリーノ・サンドロヴィッチ/1963年、東京都生まれ。93年より劇団「ナイロン100℃」を主宰。99年『フローズン・ビーチ』で第43回岸田國士戯曲賞受賞。

INFORMATION

『ドクター・ホフマンのサナトリウム』
11月7日~24日、KAAT神奈川芸術劇場 地方公演あり
https://www.kaat.jp/d/DrHoffman

「カフカの理屈で語れぬ世界を面白がってもらいたい」ケラリーノ・サンドロヴィッチ

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