ある地方都市。青田に囲まれたY字路で少女失踪事件が起きる。12年後、再び悲劇が起きた。Y字路に続く集落では、亡き妻を想いながら1人で暮らす男が、次第に集落で孤立していく――。実際の事件に材を取った吉田修一の『犯罪小説集』から「青田Y字路」と「万屋善次郎」の二篇を組み合わせ、瀬々敬久監督・脚本で映画化された。

「小説を映画化する時、その作家さんが持っている個性に寄り添いたい、と思っています。吉田作品にとって重要なキーワードは、〈場所〉だと思います。今回であれば、“地方都市のY字路”や“限界集落”で事件が起きる。〈場所〉の裏側には、そこに生きる人間がいて、彼らがどこかへ移動する時、物語がリンクして動き出す。そこにあるのは、時代が抱える問題です」

瀬々敬久さん

 少女誘拐の疑いをかけられたのは、幼い頃母に連れられ日本にやってきた青年(綾野剛)。山奥の集落に犬と共に住む男(佐藤浩市)は、養蜂で集落を豊かにしようとするも、1人だけ儲けようとしていると疑われ、村八分にされる。

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「外国人への嫌悪、地方の限界集落での排斥。どちらも今の世の中と深く関わりのある問題です。共通しているのは、その土地の閉塞感と、根底にある差別感情です」

 映画のタイトルは『楽園』。一見内容とは真逆に聞こえる。

「事件を起こしてしまった犯人も、よりよい場所や人生、すなわち〈楽園〉を求めて生きてきたと思うんです。目指してきた所、今いる場所が〈楽園〉じゃなかった、と気づいてしまった時、犯罪が起きてしまうことがある。僕自身もそうですが、今の日本の中年以上の方たちって、どうしてこういう世の中になってしまったんだろう、と思っているところがあると思います。それでも世の中には、希望があるはず。凄惨な出来事を乗り越え、その先の未来に光を見出せる映画として観てもらえたら、と思います」

ぜぜたかひさ/1960年、大分県生まれ。2016年『64-ロクヨン-前編』で日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。監督作に『最低。』『友罪』など。

INFORMATION

『楽園』
10月18日より全国公開
https://rakuen-movie.jp/