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スパイク・リーに絶賛されたベトナム人監督「人生を賭けて女性についての映画を作っていきたい」

アッシュ・メイフェア(映画監督)――クローズアップ

2019/10/21
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 近年、映画界では若手女性監督の活躍が目覚ましい。とはいえ日本を始めアジア圏における女性監督たちは未だごく少数派。だからこそ彼女たちは自分の性別と真摯に向き合い、女性たちのための映画を作ろうと闘い続けている。

 現在公開中の映画『第三夫人と髪飾り』の監督アッシュ・メイフェアも、今後の活躍が期待される若手女性監督の一人。13歳までベトナムで育った彼女はロンドンで文学を学んだ後ニューヨーク大学で本作の脚本を書きスパイク・リーから絶賛を受ける。その後同郷の先輩トラン・アン・ユン監督の協力を得、数年をかけて初長編を完成させた。映画の舞台は19世紀の北ベトナム。富豪の家に第三夫人として嫁いだ14歳の少女メイの成長の旅路が、生々しくも切実に描かれる。

アッシュ・メイフェア監督

「ここで描かれる出来事はどれも実際に存在する人々の体験に触発されて作り出したもの。私の曾祖母は、メイと同じ14歳で、すでに何人も妻のいる人と親の言いつけで結婚し、祖母もまた家同士が決めた相手と不幸な結婚生活を送りました。劇中で第一夫人を襲う悲劇は私の母がかつて経験したことですし、女中が語る過去の物語は私の乳母の話が発想源。メイが第二夫人に対して抱く感情は私自身の経験に基づいています」

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 美しい映像で綴られた家族史。だが少女の体験には今の時代に通じる普遍性もある。

「個人的な感情を深めるほどより普遍的な作品になると思うんです。個人の自由と権利が厳しく制限された社会で、メイは愛を求め自由になりたいと強く願います。その気持ちは国籍や時代を超えて伝わりますよね。愛や憎しみ、怒りや欲望、悲しみや失望は人間誰もが持つ基本的な感情だし、それが真実であれば観客の心を必ず打つはず。私がトラン・アン・ユン監督から受けた重要な教えは、自分の心の声に忠実に映画を作ること。心の声に従って感情的な真実を伝えることが私の作品の核になっています」

 気取りのない口調ながらも、映画作りに賭ける思いは確固としたもの。また女性監督としての意志も強い。

「自分が女性であること、女性として経験してきたすべてが私の力であり土台となっています。だから私の人生を賭けて女性についての映画を作っていきたい。世界中の女性たちが経験することに光を当てあらゆる側面から女性を描きたいと思っています」

 そんな彼女に影響を受けた監督の名前を聞いてみた。

「好きな監督はたくさんいますが、あえて女性監督に絞るとジェーン・カンピオン、クレール・ドゥニ、アニエス・ヴァルダが大好き。作品はもちろん彼女たちの映画との向き合い方に惹かれます。強い世界観を持ち1作ごとに自分の枠を広げようと猛進する彼女たちを見ていると、自分も監督として前へ進んでいく勇気をもらえるんです」

 次作では、1990年代のベトナムを舞台にトランスジェンダーの女性を描く予定だという。次はどんな女性映画が誕生するのか楽しみだ。

Ash Mayfair/ベトナム出身。ニューヨークで映画制作を学び初長編『第三夫人と髪飾り』が世界各国の映画祭で話題を呼ぶ。ただし本国ベトナムでは公開後4日で上映中止となった。

INFORMATION

映画『第三夫人と髪飾り』
http://crest-inter.co.jp/daisanfujin/

スパイク・リーに絶賛されたベトナム人監督「人生を賭けて女性についての映画を作っていきたい」

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