東京都目黒区で2018年3月、船戸結愛ちゃん(当時5歳)が虐待を受けた末に死亡した事件で、保護責任者遺棄致死などの罪に問われた父親の雄大被告(34歳)の東京地裁の裁判が結審した。新聞は「被害者が1人の児童虐待事件で懲役18年の求刑は異例」(朝日新聞デジタル10月7日配信)と報じるが、問われていない“もう1つの罪”が存在する。
優里被告への心理的DVという問題
検察側の論告によれば、雄大被告は香川県にいた2016年4月、結愛ちゃんの母親である8歳年下の優里被告と結婚し、実子となる弟が生まれた頃から結愛ちゃんへの暴行をエスカレートさせた。
一家で東京・目黒のアパートに転居した18年1月下旬からは食事制限を開始。2月下旬には顔面が腫れ上がるほど結愛ちゃんを殴り、翌日から娘が嘔吐して衰弱しているのを知っていながら虐待の発覚を恐れて病院に連れていかず、3月2日に肺炎による敗血症で死亡させた。遺体には、170箇所ものあざや傷が確認された。
問われたのは、娘を殴打した「傷害罪」と病院に連れていかなかった「保護責任者遺棄致死罪」だ。だが、妻である優里被告に対する心理的ドメスティック・バイオレンス(DV)は直接、罪に問われてはいない。優里被告自身が「加害者」として罪に問われているからだ。
「共犯」に引き込まれた優里被告には先月17日、同じ東京地裁で8年という重い懲役刑が科された。確かに判決も、「心理的DVを受け、雄大被告からの心理的影響を強く受けていた」と認定したが、「強固に支配されていたとまでは言え」ないとして、責任を大幅には減じなかった。
優里被告は公判で「結愛の心も体もボロボロにしてしまって死なせてしまったことへの罰はしっかり受けたい」と述べ、重い刑に服する意思を示している。控訴したのは被告の思いというよりは、15日に迎える雄大被告の判決が優里被告の量刑に照らし不当に軽く済まされた場合に備えるという弁護人の法の専門家としての判断の色彩が強い。
では雄大被告の量刑が重ければ、それで事件は適切に裁かれたと理解してよいのだろうか。
DVと児童虐待には強い関連性がある
公判で明らかになった虐待の数々を1つの時系列に編みなおしてみると、じつは「虐待死」は雄大被告による優里被告への「DV」を起点とし、これを積み重ねることで、巧妙に仕向けられていったプロセスであることが見えてくる。
DVと児童虐待には強い関連性があるのに見逃されている――精神科医・臨床心理士の白川美也子医師は10年以上前から、警鐘を鳴らしてきた1人だ。白川医師は弁護人の依頼で今年3月から6月にかけて計7回、東京拘置所で優里被告と面会を重ね、優里被告が「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と「解離性障害」の2つの疾患にかかっていると診断した。
最大の心の傷は、横になっている娘の腹をサッカーボールのように蹴り上げるのを目の当たりにした体験だった。