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フランスの画家デュフィが描く「暮らしの美」が日本人の心を打つのはなぜか

アートな土曜日

2019/10/12
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 明るく軽やか、かつ親密で、画面の隅々まで光に満ち満ちている。

 ラウル・デュフィの描く絵画は、いつだってそうだった。ときに「お手軽な装飾用の絵」などと軽く見られることはあれど、それがあるだけでその場の雰囲気が華やぐ作品なんて、なかなかない。

 デュフィの絵画と、盛んに手がけていたテキスタイルデザイン作品に着目した展覧会が始まっている。東京汐留、パナソニック汐留美術館での「ラウル・デュフィ展 絵画とテキスタイル・デザイン」。

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『公式レセプション』 1942年 油彩/キャンバス 大谷コレクション

南仏で才能が開眼

 デュフィはフランス・ノルマンディー地方の港町ル・アーブルの出身。そこは今も昔も寂れた漁港というよりは、カラフルな建築に陽光が降り注ぎ、海面がキラキラと輝く美しい土地だ。つつましくも音楽好きな一家に育ったデュフィは、美術学校へ進学して絵画の道を志す。

『ニースの窓辺」1928年 油彩/キャンバス 島根県立美術館蔵

 絵画については、いろいろな方面から影響を受けた。モネやルノワールらの印象派。マティスらが主導したフォービズム。形態と色彩について根元に遡って突き詰めたセザンヌにも心酔した。

 そのうえでデュフィは、1920年ごろから南仏に腰を据えて制作をするようになった。土地との相性もよかったのか、ここで独自の画風が開花する。華やかで柔らかい色調と優美な輪郭線で描き出されるモチーフは、海辺の光景やコンサートホール、楽器など心が浮き立つようなものばかり。画面から人生の愉しみ、生きる歓びが放散される作品が続々と誕生した。

『黄色いコンソール』 1949年頃 油彩/キャンバス 大谷コレクション