アートと文学を結びつけて展覧会をつくってしまおうという大胆な試みが、東京の国立新美術館で展開されている。「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」と題したグループ展だ。

 

文学の力をアートに取り込んだ作品群

 出品しているのは北島敬三、小林エリカ、ミヤギフトシ、田村友一郎、豊嶋康子、山城知佳子。主に現代アートの世界で活動しているアーティストたち。写真や映像、立体作品、それに空間全体を作品とみなすインスタレーションなど、手法や作風はかなりバラバラ。

 はて共通項はどこにあるんだろう? そう思って会場を眺め渡すと、展名にもある「文学」という言葉に行き着く気がした。6人のアーティストの表現形態はさまざまだけど、文学が持っているストーリー性のようなものを、どの表現からも強く感じるのはたしかだったのだ。

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 文章で綴ってあるかどうかではなく、その表現を契機に観る者のなかに物語が立ち上がる気配のあるものを、ここでは「文学を内包した美術」として取り上げているのだと考えられる。

 遠い国に暮らす人々のポートレートを撮った北島敬三や、生活の断片のビジュアルイメージを集めたミヤギフトシの作品にも、物語が駆動しはじめる気配を感じるけれど、空間を通り抜けたあとに、最も強く一冊の本を読み終えた気分にさせられるのは、小林エリカの展示だ。

 

 彼女に与えられたスペースは、全体が暗がりになっていて、壁面や床面のここかしこに設置されたモノが、スポットライトに照らされぼんやりと浮かび上がっている。

 そのなかでよく目を惹くものといえば、まずは壁面のひとつを覆う幾枚もの写真。天に伸ばした人差し指から一筋の炎が上がっている。向かいの壁にある女性の肖像画も印象的な絵柄だ。さらには床に置かれた円形のモニターを覗き込めば、水面が映っていて、水紋がかすかに揺らいでいる。

 
 

 奇妙な断片に取り囲まれて不思議な気分になるけれど、なぜかずっと身を置いていたくなるような、美しさと静けさを持った空間であるのもたしかだ。