2024年から流通する紙幣のうち、千円札の裏面デザインには、葛飾北斎の浮世絵《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》が採用されると先ごろ発表された。では改めて北斎の作品に触れてみたい! と思った際、いつでもたっぷり観られる場が長野県小布施町にある。「信州小布施 北斎館」。最晩年の肉筆画を多く並べる常設展とともに、企画展示室では「面白すぎる!! 北斎漫画の世界Ⅲ」展も観られる。

 

晩年の肉筆画を常設展示室で

 紙幣デザインになるくらいだから、北斎が日本美術を代表する絵師のひとりなのは間違いないところ。6歳で筆を執り、90歳で没するまで膨大な絵を描き続けた彼には、浮世絵版画「冨嶽三十六景」シリーズをはじめ、広く知られる作品が無数にある。

 売れっ子絵師のはずなのにいつもボロをまとって身なりなどいっこう構わず、生涯に93回も引越しを繰り返すなど奇行エピソードにも事欠かない。そんな実力と愛嬌を兼ね備えた稀有な人物なのだけど、最晩年の姿については不思議と言及されることが少ない。

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常設展示室より、美人画が並ぶ

 北斎は80歳を過ぎてから、信州小布施に出向いてしばしの滞在を繰り返すようになる。生まれ故郷の江戸から遠く離れて、地元の豪農商・高井鴻山の庇護を受けながら、画業の完成を目指したのだった。

 晩年の北斎は、版画ではなく肉筆画を多く残している。それらのうち、かなりの数が小布施に伝わっており、同館の常設展ではいつでもたくさんの北斎肉筆画に触れられるようになっている。

 なかでも「祭屋台展示室」は圧巻。北斎によって天井画が描かれた2基の祭屋台を、丸ごと収蔵し展示してある。天井に描かれたのは、東町祭屋台が「龍」と「鳳凰」、上町祭屋台のほうが「男浪」「女浪」と呼ばれる怒涛図。それぞれ85歳、86歳のときに描かれたとは思えない力強さと迫力。北斎は長い画業の集大成を、小布施の地でつくり遂げようとしたに違いない。

東町祭屋台《龍》《鳳凰》