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北斎の野心が詰まった「北斎漫画」も
企画展示室で観られるのは、「北斎漫画」と名づけたシリーズである。これは北斎が筆の赴くまま、人物、動植物、風景、建築から、水や風など決まりきったかたちのないものまで、まさに森羅万象を描いて本のかたちにしてまとめた、絵の見本帖のようなもの。
彼には弟子がたくさんいたといわれ、全員にいちいち指導することは叶わぬので、教科書となる絵手本を用意したというのが制作の動機と言われる。けれどもねらいはそれだけではなかっただろう。これをもって「北斎流」の絵を世間に知らしめ、圧倒的な技量も示そうという野心だってあったと想像できる。
さらには、個人的な目論見もきっとあった。北斎の興味はいつだって「もっと絵がうまくなりたい!」ということのみだった。なんでも描けるようになる、というのが終生の目標だった。「北斎漫画」はおそらく、格好の研鑽の場として機能したのだろう。
展示されているのは、江戸の時代に刊行された冊子を一枚ずつにほぐしたものなので、綴じ穴や虫食いの跡などがなかなか生々しい。北斎の筆づかいと息づかいの双方を、小布施の地でぜひ目撃してみたい。