文春オンライン
人差し指から一筋の炎……の背後に隠された“聖火の物語”を読む

人差し指から一筋の炎……の背後に隠された“聖火の物語”を読む

アートな土曜日

2019/10/05
note

一編の物語を可視化した空間

 入口付近には、シンプルな言葉のみが記されたプレートもある。

 

「彼女たちは待っていた」

 

「オリンピックを

ADVERTISEMENT

 聖火がこの町へやってきてくれるのを

 炎が、光が、あたりを

 明るく照らしてくれるのを」

 と読める。そう、この展示の背後には小林エリカが紡いだひとつのストーリーがある。1936年のベルリン・オリンピックと、1940年に予定されていた東京オリンピック、それぞれの聖火の足跡。それと呼応するかのように運ばれた、原子爆弾の原料・ウランの行方。それらにまつわるものだ。

 かねて「放射能」をテーマに、展示のほか漫画、小説、絵画などあらゆる手法で表現をしてきた小林は、ここでもまた新たな物語を紡いだ。その短いお話を体感するための装置として、この展示空間はつくられているのだった。

 展示室の入口には、彼女の書いた文章が置かれ、手に取れるようにもなっている。それを読みながらでも、あとから読むためバッグにしまいながらでもいいけれど、小林が慎重かつ丁寧に築いた空間に分け入って、美術と文学双方の内部をさ迷い歩く体験を、ぜひしてみてほしい。

人差し指から一筋の炎……の背後に隠された“聖火の物語”を読む

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー