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一編の物語を可視化した空間
入口付近には、シンプルな言葉のみが記されたプレートもある。
「彼女たちは待っていた」
「オリンピックを
聖火がこの町へやってきてくれるのを
炎が、光が、あたりを
明るく照らしてくれるのを」
と読める。そう、この展示の背後には小林エリカが紡いだひとつのストーリーがある。1936年のベルリン・オリンピックと、1940年に予定されていた東京オリンピック、それぞれの聖火の足跡。それと呼応するかのように運ばれた、原子爆弾の原料・ウランの行方。それらにまつわるものだ。
かねて「放射能」をテーマに、展示のほか漫画、小説、絵画などあらゆる手法で表現をしてきた小林は、ここでもまた新たな物語を紡いだ。その短いお話を体感するための装置として、この展示空間はつくられているのだった。
展示室の入口には、彼女の書いた文章が置かれ、手に取れるようにもなっている。それを読みながらでも、あとから読むためバッグにしまいながらでもいいけれど、小林が慎重かつ丁寧に築いた空間に分け入って、美術と文学双方の内部をさ迷い歩く体験を、ぜひしてみてほしい。