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なぜアマゾンは社内プレゼンで「パワポ」の使用を禁止しているのか

星 健一 2019/11/12

ビジネスドキュメントは「1ページャー」と「6ページャー」で

 アマゾン社内のビジネスドキュメントは、「Narrative」(ナラティブ=物語)と呼ばれるA4で1ページの「1ページャー」、もしくは6ページの「6ページャー」のメモのどちらかにまとめることになっている。

 報告書など社内で提出するほとんどのドキュメントは1ページで簡潔にまとめる。年度ごとの予算であったり、大きなプロジェクト提案などは6ページにまとめるのが基本的なルールだ。ドキュメントの内容はどんなトピック(論ずるテーマ)かを示す見出しと、トピックを説明する文章のみ。詳細な数字や、補足情報が必要な場合は別途 「Appendix」(添付資料)として、枚数にはカウントしない。

 6ページャーが提案される会議では、冒頭のおよそ15~20分間、まずは全員がドキュメントを読むための時間にあてられる。静まったミーティングルームで参加者が黙々とドキュメントを読む雰囲気はかなり緊張感が漂っている。

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 その後、基本的にはページごとにドキュメントの提案者であるオーナーが出席者からの質問に答えながら、さまざまなフィードバック、アドバイスを通して議論を重ねていく。

©iStock.com

 当然「Dive deep」(深掘り)の質問が相次ぐことがほとんどなので、提案者にはどんな質問にも理論的な回答ができるようにプロジェクトの細部まで把握、理解をするのと同時に、提案内容に共感を得るための説明能力や説得力が求められることになる。

 この「1ページャー」「6ページャー」ルールが社内で徹底されるようになった2009年頃の当初は、A4で6ページのドキュメントはそれなりの文章量とはなるが、大がかりな予算案やプロジェクト提案をまとめるには少々ページ数が足りないと感じることがあった。まして1ページにまとめるためには、余計なエピソードや言い逃れが入り込む余地はない。導入当初は姑息にも文字サイズを小さくしたり、行間をせまくしたりしてスペースを稼いだものだ。

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 でも、ルールに則ったドキュメント作成が習慣になってくるにつれ、定められたフォーマットに従って論旨を構築する作業には、無駄を削ぎ落とし自らの思考を整理する効果があることを実感できた。