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横澤夏子の告白「私が同窓会の帰りに泣く理由」

2017/03/27
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『文藝芸人』(文春ムック)

文春ムック「文藝芸人」発表の記者会見で、フジモンことFUJIWARAの藤本敏史に「横澤はすぐ泣くからな。うちに来て幸せそうな家族を見て涙ぐんじゃう」と涙もろさをばらされた横澤直子さん。同窓会でも、幸せそうな周囲と自分を比べてつい泣けてしまうという。「文藝芸人」で涙の理由を初めて明かした。

※本記事は「文藝芸人」(文春ムック)からの転載です。

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 新潟の高校を卒業した十八歳の時、芸人になりたいという夢を持って上京しました。二十六歳の現在、念願のルミネtheよしもとの舞台に立てて、キラキラ輝くようなテレビ番組にも出れて、かつてテレビで見ていたあんな人、こんな人に会えて……高校の頃の自分に自慢したい!なんて思ってしまうような充実した今日この頃ですが、私は同窓会の帰りに必ず泣きます。

 私の原動力は、「地元のOLの友達に負けたくない!」ただそれだけです。

 フェイスブックや噂話などで知る友達の動向にいつも私は神経を尖らせます。「ごめんね~、お習い事で忙しくて遊び行けないの~。」発言。なにそれ、友達との遊びより優先するお習い事なんてある? 「会社から帰ってきて、ご飯も作って食べちゃってお風呂も入ってマッサージまで終わっちゃってやることないから雑誌読んでるよー。つまーんなーい。」発言。え、つまんなくないよ、充実してる日があるからこそつまんなく思えてしまう余裕の夜なんでしょ? 逆にすごく憧れるんですけど……。「今日もバカみたいな奴しかこないバカみたいな合コン行ってきてバカみたいに飲んできたよ~。」発言。バカみたいに楽しそうじゃん!

 全部全部幸せアピールに聞こえるのです。

 田舎を飛び出し夢を追っかけ、グダグダと朝まで飲んだりして、遊び呆けている……地元の友達に、そんな人生だと思われたくなかった私は、芸人になって1年目の時に、「毎月40万円のお給料を貰っている」と嘘をつきました。本当は、月に10万円貰えるまで6年もかかったのに、ただの見栄張りです。

横澤夏子(よこさわ・なつこ)/1990年新潟県生まれ。NSC東京15期生。「ちょっとイラっとくる女」のネタでブレイク。婚活が実り、彼氏ができたことでも注目を集めている

 いつか「自分磨きにお金いっぱい遣っちゃったの~」という自慢ができるように、毎月2つ、無料体験のお習い事をやってみて、どれかをちゃんと習ってみよう。そう決めて、ハープ、アロマテラピー、デッサン、フラダンス、手相教室、フランス語、プリザーブドフラワー、フラメンコなど20種類ほどやりました。その後続いたのはお料理教室とクラシックバレエだけでしたが、ともかく習っているだけでいい女度がワンランク上になった気がしました。

 太ってるからダメなんだと、エステにも入会し「脚を爪楊枝(つまようじ)の細さにしてください!」と言って大金を払いました。

 大学に行っていないコンプレックスもあるので、その分たくさんバイトをしようと20種類ほどやりました。バイトで仲良くなった人と、「大学生のサークル飲み」みたいな飲み会をやってみたり、バイトをやりながらさらに資格を取ったり。髪をかきあげ、コツコツコツと高いヒールを鳴らしながら、颯爽(さっそう)と歩く憧れの女性像に近付けるよう努力しました。

 初めての同窓会は、成人式から5年経った2年前。地元・新潟で開かれました。

 中学の同級生たちは、大学を卒業して就職している人もいれば、立派な肩書きを早くも持っている人もいました。はたまた、長年付き合った彼と結婚する人もいれば、子供を2人産んだ人もいました。

 習い事、エステ、バイトで「分厚めの鎧(よろい)」を身に纏(まと)ったつもりで臨んだ私。でも、うっすーいヒラヒラの女性らしいトップスを着た同級生の「今わたし、恋愛休む時期なの。」の一言で私の鎧はすぐに砕けました。なにそれー。恋愛を休む? 恋愛に疲れることなんてあるのか……一周回るとそんな気持ちになるのか!

 しかもうちの地元じゃ、墓守りをする人=家を継ぐ人、が一番偉いという考えなんです。だから、給料が良いことなんて全く自慢にならなかったのです。

 同窓会では自分の話を3割り増しにして喋るもんだと聞きますが、分かっていても、みんながキラキラしているように見えて仕方なくて、それに引きかえぜんぜんキラキラ出来てない私。悲しくなって、帰り道に泣きました。

 そうか、恋愛か! 私も恋愛に疲れてみたい! 恋愛に疲れるまで恋愛してみよう。

 次回の同窓会に備えて、婚活に励みました。それまで行っていた婚活パーティーに、さらに身を入れて参加しまくり、今ではかれこれ100回を越えました(男性を見る目も肥えました)。立派な社会人として自分に足りないものは保険だ!と思い、結婚してもないのに結構な月額の生命保険に入りました。

 全ては同窓会のため、地元の友達に見下されないため。そんなことをずっと考えているとすごく切なくなるのですが、鎧を身に付けずになんか参加できません。自分に嘘をついてでもワンランク上の女を演じないと、今度は帰り道まで待てずに、途中で抜け出して泣いてしまう気がするんです。今度こそ、キラキラした私を同級生に認めてもらう! 帰り道に泣かない! と決意していました。

 さて、ついに来た昨年末、2回目の同窓会。午前中からテレビに出演させて頂き、最近一番オシャレと言われる服をチョイスして、ちょうど仕事用に髪型も可愛くスタイリングしてもらった状態で、2時間も遅刻してしまいましたが会場に到着。自分史上最高の私でした。

 左右の壁には、ブランド物のコートがズラリと掛けられていて、久しぶりに会うみんなは、やはり華やかな人生の発表会を次々にやっていました。私が準備していた以上にキラキラ、いや、キラッキラしているみんなが楽しく酔っ払っている状態……でもそれまでの同窓会と違う点がありました。それは、みんなが包み隠さず愚痴を言っていること。

「上司の〇〇さんが、ほんっとうるさいの~。見返すためだけに仕事辞めてないからね。」とか、「今の彼とは結婚したくないんだよね、もっといい男絶対いると思って早5年……案外いないのかもね。」。会社や恋愛で苦しいことがあるけど、やるしかないからな~。なーんていう弱音や愚痴を、肩に力を入れずに等身大で話している同級生。ガチガチに指先まで力を入れて3割り増しの話をしようとしていた私は、そんな自分がすごくすごくちっぽけで切なくなりました。

 その日の帰り道、やっぱり私は泣きました。

文藝芸人 (文春ムック)

文藝春秋
2017年3月16日 発売

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