「弟が兄に花を持たせたのではないか」という憶測
歴史に残るこの大一番を、弟が兄に花を持たせたのではないかとする憶測は、今なお静かに燻っている。だが、当の貴乃花は「あり得ません」と改めてそれを一蹴し、こう続ける。
「やりにくさを感じた自分の未熟さが、そのまま結果に出たということです。兄の勝敗がどうあれ、本割に勝って優勝を決められなかったことも含めて、まだまだ精神をコントロールできていないと思い知らされました」
本書を通じて、貴乃花は「土俵では無心でなければ勝てない」と繰り返してきた。雑念は相撲に狂いを生じさせる。裏を返せば、実力者同士の勝負とは、それほど繊細かつ紙一重なもの。兄との対決は、貴乃花にそれを再認識させた。
貴乃花光司(たかのはな こうじ)
1972年8月12日東京都生まれ。88年藤島部屋に入門。92年幕内優勝を果たす。その後、兄の若乃花と「若貴フィーバー」を巻き起こす。94年に第65代横綱に昇進。2003年に現役引退。幕内優勝22回、殊勲賞4回、敢闘賞2回、技能賞3回など数々の記録を残す。04年に「貴乃花部屋」の親方に。10年に日本相撲協会理事に就任。18年に同協会を退職。
石垣篤志(いしがき あつし)
1974年石川県生まれ。大学卒業後、テレビ番組制作会社、フリーライター、「週刊実話」記者を経て、2001年から「週刊文春」記者。
2019年 スポーツ部門 BEST5
1位:リーチマイケルが相手のロッカールームを訪ねて……なぜラグビー選手の行動は感動を呼ぶのか?
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