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副社長が「やりたい」と言った

――佐々木さんの原子力事業に対するガバナンスというか、佐々木さんは原子力事業をグリップできていたのでしょうか。

 原子力を、ウエスチングハウスを買うときは佐々木の意見というより庭野(征夫元副社長)がいましたから。庭野とよくやっていたので、佐々木とやっていたわけではないですよ。

――庭野さんが「ウエスチングハウスはやる(買う)べきだ」と進言された?

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 庭野は「やりたい」と言っていましたね。「是非やりたい、やったほうがいい」ということで。

 事業計画なんかも作って来たけど、12、3年くらいの計画だったんですよ。僕は「これじゃ判断できない」と。2050年までの計画を作らせた。

 そこまで長期だと、精度は落ちますよ。でもうちが買わなかったとき、日本の別の会社が買ったとき、あるいはアメリカの会社が買ったときで、いろいろと事情は違ってくる。それを45年、50年の単位で考えろと。

 もともと息の長い話で、2年~3年で判断する事業じゃなくて、20年~30年というタイムスパンで判断する事業だから。短い事業計画で判断できない。

 それで僕は「これだとウエスチングハウスを買収しないことには、原発事業は継続できない」と判断した。その頃は残念ながら福島(第一原発の事故)も予測できなかったので。

――(東芝が手がけていた)BWR(沸騰水型原子炉)だけでは厳しいと。

 厳しいと。ウエスチングハウスを買わないと海外展開はできないな、と。というので、まぁ先頭に立って動いたと。

綱川社長は何も知らない

――なるほど。

 だけど今の東芝の社長(綱川智氏)は「問題がある判断だったんじゃないか」と言っている。そうじゃなくて、こういうことにしてしまったというのは自分たちの経営能力の問題ですからね。

 経営判断力もずいぶんなくなっていますし、経営能力は著しく落ちているわけです。(買った後に)マネージできなかった。そこが問題で、買ったことが正しいのかどうかというのは、20年か30年経たないと分からない。長期的に見ないといけない事業だから。

 僕は最適な判断につとめたし、そうしたつもりです。後は(その後の経営者に)その経営をやっていくだけのマネジメント能力があるかどうかですよね。今の(綱川)社長はウエスチングハウスなんて行ったこともないだろうし、何も知らない。

 僕は原子力のことを結構勉強したんですよ。本も読んだし実際の現場にも何度もでかけたし、技術の勉強もずいぶんとしましたよ。それですべてが分かったわけではないですけど、結構努力をしたつもりです。その中で最適な判断を出したつもり。こういうことになってしまったのは、マネジメント能力の問題があるから、残念です。

左が西田氏。西田氏の後「マネジメント」した佐々木氏(右)、田中氏(中央)。©getty

マネジネント能力の問題

――西田さんの後任の佐々木さんは、原子力の専門ですが、にもかかわらずマネジメントができなかったと。

 技術的に分かっているとかね、彼はもともと配管をやってきた男だから、実際の原子力の主流派ではないです。まぁ技術は分かっていたかもしれないが、それとマネジメント能力は必ずしもイコールではない。事業を知ってれば事業を経営する能力があるかというと、そうじゃない人のほうが多くて。その問題が大きい。

 一概に買収が正しかったかどうかだけで片付けようとすると、日本のほかの企業にとっても学ぶことが何もなくなっちゃう。新聞なんかの論調は「買収が正しかったかどうか」というだけで。

――肝心なのはその後のマネジメントだと。

(マスコミは)経営というのが分からないものだから、結局そういうふうに話を持って行ってしまう。それだとやっぱり進歩がないですよね。そこはしっかり書いて下さいよ。

佐々木氏は間違っている

――佐々木さんの社長時代を見ていると「お国に褒められたい」みたいなところがありましたね。経済財政諮問会議の民間議員にもなっていますし。

 それは間違っていますよね。

――政治家や官僚の顔色を見て仕事をしてはダメだと。

 私はそんなつもりはないですから。官僚に対してもへーこらしないから、ズケズケと言うほうだったから。

――佐々木さんはむしろ非常に官僚の言うことを聞いた。

 それはいけないですよ。

 西田氏は最後にそう語り、インタビューは終った。

 繰り返すが、西田氏はウエスチングハウス買収時の社長であり、不正会計処理の問題で東芝に訴えられている当事者でもある。

 しかし、「買収は当時の適切な判断で、問題はマネジメントの能力の欠如だった――」。西田氏の主張は清清しいほど一貫していた。