もはや一企業の枠を超え、日本経済の信頼を揺るがす大問題になった東芝危機。国会でも真相究明の動きが出てきた。

 4月12日午後に開かれた衆議院の経済産業委員会。質問に立った民進党の近藤洋介議員は、世耕弘成経産大臣に問いただした。

 質疑応答を実況中継する。

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ライブドアは同様の「決算」で上場廃止に

民進党の近藤洋介議員

近藤 今朝の新聞一面トップは東芝一色。監査法人の結論不表明という「決算」と呼べるかどうかも怪しい数字を発表するという異常事態だ。

 かつて同様の「決算」をしたライブドアは上場廃止になり、経営者の堀江貴文氏は有罪判決を受けた。

「世界から投資を呼び込む」という安倍政権にとって、東芝の粉飾は重大な問題のはず。この案件が未だに「粉飾」と呼ばれず、刑事事件にもなっていないのは不思議である。東芝の経営危機について、どう考えるか。

世耕 東芝が長期にわたって有価証券報告書に虚偽記載を続けてきたのは問題であり、先進的なガバナンスを導入している会社だと理解していただけに極めて遺憾。海外投資家の不信を招く恐れもあるので、ガバナンス改革が重要だと考えている。

世耕大臣は「ガバナンス改革が重要」と答弁

近藤 そうした会社が上場を維持したままでいいのか。日本政府のガバナンスが問われている。

 次に首相秘書官の今井尚哉氏、当時は資源エネルギー庁次長でしたが、彼と、東芝元社員、田窪昭寛氏の関係について聞きたい。4月13日号の週刊文春では二人の親密な関係が大きく報道されている。見出しは「東芝“原発大暴走”を後押しした安倍首相秘書官 今井尚哉」。今井氏が東芝の海外原発事業を強力に後押ししたのは事実か。

 日下部(聡)エネルギー庁長官に聞く。今井氏と田窪氏は何度面会し、何度会食し、何を話し合ったのか。

日下部 原発輸出については民主党、菅政権の時に、政策として推進することが決まり、東日本大震災の後は「相手国の要請があれば、日本の教訓を踏まえて協力する」という方針になった。

 資源エネルギー庁は組織として政府の方針に従って原発輸出に取り組んだのであり、特定の企業を後押ししたという認識はない。週刊誌報道では会食などの結果、どういう問題が生じたのか触れられておらず、個別の面会について今井氏から直接、聞き取りをする必要はないと考える。

日下部氏は「今井氏に聞く必要はない」と発言

近藤 あなたが「必要ない」と判断するのはおかしい。委員会として今井氏への聞き取りをお願いしている。

日下部 会食でどうした問題が生じたのかも示されていないので、今井氏に直接聞く必要はない。

今井秘書官はオフレコで事実関係を認めた

近藤 では聞くが、週刊文春の報道が出た後、今井氏は番記者をオフレコで集め「原発輸出に関連し、田窪氏と年に30回会ったのは事実」と認めている。「東芝は原発事業に偏りすぎたから経営危機になった」とも発言しているらしい。本人が認めているのに、なぜ長官は聞き取りをしないのか。

日下部 原発輸出の個別プロジェクトについては各社の経営判断でやっている。今井氏についての調査は必要ないと考える。

近藤 質問を変える。トルコへの原発輸出に今井氏はどう関わったか。

日下部 トルコとは原発輸出について2010年から政府間の対話が始まり、菅(直人)首相や仙谷(由人)官房長官のもとで交渉が進んだ。その後、福島第一原発の事故があり、野田(佳彦)首相とエルドアン首相の会談でも協力していくことになった。

 今井氏は2011年6月から翌年12月までエネルギー庁次長であり、政府職員の一員としてこのプロジェクトに参加していた。

経済産業委員会

近藤 今井秘書官は2011年11月、田窪氏と一緒に米国のウエスチングハウスを訪ねたという情報があるが、その報告は長官のところに上がっているか。

日下部 報告は上がっていないが、原子力政策を遂行する立場の人間が業界の様々な人に会うのは普通のことだと思う。

近藤 高橋(泰三、経済産業省)官房長はこの視察に参加したのでは。

高橋 記憶にない。

日本の原子力産業は「国策民営」

近藤 エネルギー庁次長の今井氏がウエスチングハウスを訪れることで、東芝の海外原子力事業を後押ししていたとしたら、これは問題だと思う。

 かつて東芝のライバルだったドイツの重電大手シーメンスは3・11をきっかけに原発事業から撤退した。現在、シーメンスの株式時価総額は東芝の13倍だ。

 シーメンスは事業再編によって企業価値を高めたが、原発輸出の国策に引きずられた東芝はこうなってしまった。私も民主党政権時代(経産副大臣として)原発輸出をやってきた人間だが、3・11以降は慎重に進めるべきだったと思う。

 何れにしても東芝の経営危機に、政府の原発輸出政策がどう影響したのかは明らかにしていかなければならない。日下部長官が今井氏に聞き取りをしていないというのは、国会に対しても、東芝の株主に対しても大変不誠実だ。

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 日本の原子力産業は「国策民営」と言われる。絵を描くのは官僚で、それを実行するのが経営者ということになる。東芝はその原子力事業が生んだ巨額損失によって存亡の危機に立つ。海外原発事業で無謀な投資を繰り返した経営陣の責任が問われるのはもちろんだが、絵を描き振付をした官僚は無罪放免なのだろうか。

 自主独立であるはずの企業経営者が高級官僚の意思を忖度して動いていたとしたら、明治以来の官尊民卑が未だにまかり通っていることになる。株価暴落で損害を被った東芝の株主や、雇用を脅かされた従業員は泣くに泣けない。

麻生大臣は東芝に苦言

 近藤議員は同日午前に開かれた財務金融委員会で、麻生太郎財務大臣にも東芝問題について質問している。

麻生氏「コメントする立場にない」

近藤 昨日、東芝が監査法人の「結論不表明」のまま決算を発表した。日本を代表する企業の危機をどう受け止めているか。

麻生 監査法人の意見不表明についてはよく承知しているが、理由がわからない。投資家も「なんだこれは」と思っているだろうから、しっかり説明をしてもらわないと「日本の監査はいい加減なものではないか」と憶測され、市場が混乱する。そういう状況は避けなくちゃならん。

東芝は告発すらされない現実

近藤 平成19年、利益を50億円水増ししたライブドア社長の堀江貴文氏は、有価証券報告書の虚偽記載で証券取引法違反に問われ、2年6ヶ月の実刑判決を受けた。会社は上場廃止。東芝の粉飾額は2000億円。ライブドアが実刑で、東芝の事案が告発すらされない現状は理解できない。

麻生 市場の透明性確保が重要なのは当然だが、証券取引等監視委員会は独立して職権を行使する機関であり、金融担当大臣としてはコメントできない。刑事罰云々についてもコメントする立場にない。

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 東芝危機がここまで深刻になった今も安倍政権は「原発輸出推進」の旗を下ろさず、「国策民営」の中心にいた人物が最側近として首相に仕えている。

 原発のリスクが民間企業の手に負えないことは東電、東芝の相次ぐ経営危機が証明した。

「国策民営」のどこに問題があり、我が国は原子力をどう扱うべきなのか。新たな方向性を探る意味でも、東芝問題は国会で徹底的に議論されるべきだ。