「本の話WEB」で、「10人の書店員に聞く〈書店の謎〉」という企画が連載中(連載は終了しました)。本屋好きとしては見逃せない。ということで、書店の謎を探るべく、紀伊國屋書店新宿本店にうかがった。紀伊國屋書店は新宿で創業して85年以上(メディアファクトリー新書から『新宿で85年、本を売るということ』という本も出ている)、現在の新宿本店の竣工から50年、歴史と伝統を持つ日本有数の本屋の一つである。きっとたくさんの〈書店の謎〉が明らかになるに違いない。
読者として、お客さんとして本屋さんを訪ねると、並んでいる本や棚、レジは見えていても、なかなか裏方はわからない。新刊の本が出て、華やかに店頭で売り出されるまで、どう選ばれ、どうやって運ばれ、どう並べられるのか、書店員さんに密着して追いかけてみた。
なかなか本屋さんのバックヤード(スタッフのエリア)に入る機会がないので緊張する。トラックで取次から運ばれてきた荷物は、地下の仕入課というところで仕分けされる。さすがの紀伊國屋本店、売れ筋の新刊であれば数百冊の単位、アイテム数で200アイテムほどが入荷するため、荷物も大量だ。専用のトラックヤードから、ロールパレットに乗って運ばれた本は、売り場の台車に仕分けられていく。ここでは紀伊國屋書店ウェブストア(インターネットショッピング)の登録もやっているので、入荷した本を一冊ずつ取り分けておいて、表紙をスキャンするそうだ。
たとえば、最近人気の小説の第2巻が出た場合、新宿本店では、1階新刊売り場、1階「ひろば」、2階文学、テーマによっては人文書やビジネス書の棚でも売ることもある。各売り場の担当者は、それぞれ、1巻目の売り上げ、その著者の過去の著作の実績、類書の販売傾向などを参考に注文数を出す。それぞれから上がってきた数字を加算し、最近の話題や出版社からの情報を加味して仕入課で注文数を決める。出版社の担当者も、売り場だけでなく、仕入課にも顔を出すことで、一つの売り場だけでない、本の動きを感じることができるという。フロアが分かれていて、それぞれ独立した売り場がたくさんある、アンテナショップをたくさん持つブランドの本部機能のようだ。
取材日に入荷した秋川滝美さんの小説、『居酒屋ぼったくり2』(アルファポリス)を例に、2階、文学売り場の担当、今井麻夕美さんと一緒に、実際の本の動きを追ってみた。文学の売り場向けの台車に積まれた本は、荷物用エレベーターで地下2階から2階の売り場へ運ばれる。まずは売り場正面のフェア棚。人気シリーズの第2弾とあって、事前に1巻目を陳列しているので、ちょっと詰めて場所を作り、2巻目を並べる。続いて、文学の新刊売り場、ここにも1巻を平積みしているので、その隣に場所を作る。文学の著者別売り場にも平積みする。
スペースを作るのにあんまり動いていない既刊本を、平積みから棚差しに変更する。1アイテムごとに売り場ごとの入荷数、週単位の売り上げ、在庫数のリストがあるが、毎日棚を触っているため数字はだいたい頭に入っているとのこと。手際がいい。既刊は1面、新刊や話題書は2面、シリーズや類書はもちろん、同じ読者が手に取りそうな本を並びに持ってくる。迷わず、ていねいで、大胆。
年間の新刊点数が約8万点と言われる書籍市場、どんどん新しい本が出てきて、売り場に入ってくる。できるだけ永く売りたい、が、売り場も有限、並んでいる本は、フェア棚→新刊売り場→著者別平台→著者別棚差し、と売り場を少しずつ縮小していく。売れている本は長期間平台に残り、目に触れる機会も多い。売り切ってしまえればよいのだが、どうしても売れ残るものもある。だいたい、1ヶ月売れ行きを見て、動きがなければ返品を考えるという。複数の売り場で展開している場合、自分が担当でない売り場や、ネットでの売れ行きも参考に、出版社やジャンルによっては、「書評が出たら動くからもうちょっと待ってみよう」という判断もあるらしい。