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トランプの「取られたら取り返す」“ビジネス感覚”

 オバマ政権時、「米国はもはや世界の警察官ではない」と表明して軍事行動を避け(シリアでは化学兵器使用がレッドラインとしながら、実際使用されても動かなかった)、その結果、ロシアの介入を招くと同時にウクライナ侵攻をも許した。そして、中国の南シナ海での活動拡大を許し、北朝鮮の核やミサイル開発をも許した。アメリカの外交プレゼンスは大きく後退した。

 そこにトランプの「取られたら取り返す」“ビジネス感覚”が働いたと推察できる。ビジネスでいう「シェアを奪い返す」ということだ。

 政治的建前は建前、シェア奪還を今ここで一気にできるチャンスが目の前にあれば、間髪入れず軍事オプションを行使する。それがまさに今回の行動であり、この“ビジネス感覚”こそがトランプ流と見るべきなのだ。

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 株式市場には「戦争は買い」「有事の買い」という格言がある。戦争で無限の需要が生まれると考えられるからだ。だが“トランプの戦争”を考える時、「戦争は買い」には熟考を要するかもしれない。

トランプの戦争で市場はどうなるか ©getty

「対岸の火事」は日本には存在しない

 重商主義を背景に二国間の利害が剥き出しになる世界では戦争が恒常化する危険性はこれまでの世界より遥かに大きい。だがどんな時代でも戦争の勝利には多国間の包括的協力関係を必要とする。問題は“トランプの戦争”が長期的戦略と全体観を伴ったものかどうか。短期的戦術と個別対応というビジネス感覚だけでは勝利までの戦争遂行は難しい。シリア問題は中東に飛び火する可能性がある。そうなった時の複雑性にトランプ政権は対応できるか。

「戦争は買い」はあくまで同盟国の短期での勝利を前提とする。戦争の泥沼化・長期化は世界にとっても金融市場にとっても最悪の事態を招く。中東で武力衝突となれば様々な分野でボトルネックインフレーションが起こり、金利は急上昇を見せ、金融市場は大混乱となる。原油の中東依存度が高い日本にとって「中東は地政学上のリスクだった」と実生活・経済で思い知らされることになるだろう。そして万が一、北朝鮮への武力行使となった場合、朝鮮半島及び東アジアはどうなるか? 残念ながら私はそれを予想する情報力・分析力を持たない。ただ、これだけは言えるだろう。

「対岸の火事」は日本には存在しない……と。