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白石和彌監督が「沢尻エリカ逮捕で“大河撮り直し”は必要ない!」と語る理由――文藝春秋特選記事

過度な“自粛”は文化にとっても損失だ

「文藝春秋」1月号の特選記事を公開します。(初公開 2019年12月14日)

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 合成麻薬MDMAなどを所持したとして麻薬取締法違反の罪で起訴された女優の沢尻エリカ被告(33)。11月16日に逮捕されて以降、相次いでいるのが沢尻被告の出演作を「自粛」する動きだ。

 NHK大河ドラマ「麒麟がくる」では、既に10話分の撮影が済んでいたと伝えられていたものの、女優の川口春奈さんを代役に立てることを決定。沢尻被告出演分を撮り直すために初回放送が2週間延期されることとなった。

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沢尻エリカ容疑者 ©時事通信社

 また、今年5月に5夜連続で放送されたテレビ朝日開局60周年記念ドラマスペシャル「白い巨塔」のDVDは、当初は来年1月8日に発売を予定していたが、無期限延期となった。ドラマはV6の岡田准一(39)さんが主演。沢尻被告は、岡田さんが演じる主人公の愛人役を演じていた。

これまでの業績のすべてを否定するのは「どうかしている」

 こうした相次ぐ「自粛」の流れに疑問を投げかけるのが、映画監督の白石和彌さんだ。発売中の「文藝春秋」1月号で、その想いを語った。

白石和彌監督 ©文藝春秋

「僕は映画監督を生業にしていますが、まずはじめに申し上げたいのは沢尻エリカさんとは一面識もないということです。今回彼女がなぜ逮捕されるに至り、薬物をどれほど使用してきたのか。報道されていること以上を知りうる立場にありません。

 もちろん彼女が法を犯したのなら、その罪を償うのは当然のことです。違法薬物の使用を擁護するつもりはさらさらありませんし、法の下で処罰されるのも当然と考えます。

 しかしながら、彼女が逮捕されて以降、まるで『水に落ちた犬を打つ』ように彼女のこれまでの業績のすべてを否定し、集中砲火のバッシングを浴びせる世の中の動きについては、正直『どうかしている』と思わざるを得ません。

 このままでは彼女が今後クスリをやめ、再起を図ろうとしても、そのスタートラインに立つことすらできなくなる。本当にそうなってもいいのか——僕の主戦場はあくまで『映画』です。しかし、私的リンチを執拗に繰り返す、この社会の不寛容さへの疑問から、今日はあえてお話しすることにしました」

 白石さんが今回、疑問の声を上げたのには、今年3月、俳優のピエール瀧さんがコカイン使用の容疑で逮捕されたあとに考えたことが関係しているという。