文春野球コラムの運営サイドから「野球とメシ」をテーマにコラムを書く、という提案をいただいた。虎党の私は仕事の関係もあって、たまにプロ野球OBの方と食事を共にすることがあるのだが、そういうときはいつも彼らの肉食ぶりに舌を巻く。焼肉なんか一緒に行こうものなら、牛を一頭まるまる胃袋に収めようとしているんじゃないかと思うくらい、すさまじい勢いで多様な部位の肉を注文しては、軽々とたいらげていく。20代の若手選手ならともかく、40代や50代のOBでもそうなのだから本当に驚異的だ。
以前、元阪神監督であり、かつては阪神OB会長も務めた御年78歳の安藤統男さんとラジオ番組で共演していた時期があり、当時は生放送終了後にちょくちょく食事をご一緒させていただいた。普段の安藤さんは紳士的で上品な好々爺といった印象で、あまり体育会系の匂いを漂わせない方なのだが、そんな御大でさえ、外食といえば焼肉やしゃぶしゃぶといった肉類ばかりで、しかも結構な量を平気で食べきるから、私はいつもそのギャップに驚きを感じていた。私の祖父(故人)なんか、70代のころは小盛りの蕎麦をちょっとすすっただけでご馳走様という小食家だったから、余計に安藤さんが超人的に見えたものだ。
64%が痛風危機!? 昭和プロ野球の“達人”たち
聞くところによると、昭和の球界は今よりもっと無茶苦茶な肉食生活をする選手が主流だったという。実際、1977年7月12日のスポーツニッポンを見ると、国際リウマチ学会が興味深いデータを発表していた。なんでも当時の巨人と日本ハムの91選手を血液検査したところ、実に64%もの選手が痛風の赤信号だったという。同学会によると大相撲でさえ12%(ちゃんこ鍋のおかげ?)だったから、これはもう圧倒的な高確率だ。
以前、このデータを元阪神の亀山つとむさんに知らせたところ、亀山さんは驚く様子もなく、ただ苦笑いを浮かべながら、なおかつ我が体型を振り返るような口調で「わかるわかる」と共感されていた。氏いわく、そうなって当然の食生活が多かったらしい。
それに加えて、野球はサッカーのように持続的な運動をするスポーツではない、ということも影響しているのかもしれない。だからなのか、昭和の球界には腹が出ていたり、全体的にずんぐりしていたり、およそスポーツ選手らしからぬオヤジ体型の選手も少なくなかった。そんな普通のオヤジ風情でありながら、いざグラウンドに出ると超一流のプレーを披露するものだから、彼らには現代的なアスリートという言葉よりも、「達人」とか「勝負師」とか、そういう神秘的な言葉のほうが似合っていた。
プロ野球選手から感じる肉食のオーラ
近年の球界はさすがにここまで偏っておらず、いわゆる栄養学に基づいた食事を心がける選手が増えたという。確かに阪神のベテラン選手を見ても、福留孝介や能見篤史、藤川球児、鳥谷敬など、年齢を感じさせないアスリート然とした筋肉美を維持しているタイプが多い。なんだか安藤優也が愛おしくなってくる。
しかし、いざ彼らを間近で目にすると、それはそれは全身から肉食ならではの迫力を感じてしまう。実際の身長や体重よりも、なぜか一段と大きく見えてしまう。とにかく、プロ野球選手は総じて肉体がゴツゴツしていて、なんというか相手を反射的に屈服させてしまうような威圧感がある。とりわけ糸井嘉男なんて筋肉の塊が歩いている、あるいは胸板に手足がついているといった、そんな異形とも言える極端さを感じたものだ。
おそらく、近年のアスリート系選手は野菜や果物などもバランス良く食べ、サプリメント類も正しく摂取しているのだろうが、だからといって肉食傾向が弱まったわけではないのだろう。肉“も”大量に食べていないと、あの肉食のオーラはまとえないはずだ。