パフォーマンスとして見るなら、2時間半に及んだカルロス・ゴーン被告の会見も成功だったのかもしれない。存在感は十分にアピールできただろう。大きな身振り手振りを交えたエネルギッシュで冗舌な語りはゴーン節を思い出させ、その姿はカリスマ経営者と讃えられていた頃のままだった。
「ちょっと」どころではない拍子抜けな会見だった
「どんなことを言うのかなと思ったけど、ちょっと拍子抜けしましたね」(日産自動車・西川廣人前社長)
ゴーン氏からクーデターの主要人物として名指しで批判された西川氏は、メディアの前でこうコメントしたが、「ちょっと」どころではない。かなり拍子抜けした。なにせ保釈中にもかかわらず映画みたいな逃亡劇を繰り広げ、会見前にはアメリカのメディアの取材に「クーデターの実際の証拠や、逮捕・起訴に関わった日本政府関係者の実名を挙げる」と息巻き、人々の興味と関心を最大限に惹きつけていたのだ。ところが、蓋を開けたら、核心的な証拠も目新しい情報も出てこなかったのだから――。
翌日、メディアが会見内容に失望したと報じるのは必至だろうに、なぜ、ゴーン氏はここで証拠も実名も挙げなかったのか。
「情報を出す」はメディアへの撒き餌だった?
これがゴーン氏の狙いだったらどうだろう。情報を出すというのも、海外メディアを多く集めるための撒き餌かもしれない。彼ほどの地位や名声を得ていた者が、逮捕され被告という立場に置かれて批判や非難を浴び、取り巻きもおらず、讃えられ尊敬されていた世界から締め出される。それは耐えがたいはずだ。ズタズタにされたプライドを取り返し、失った取り巻きや味方を作り、辣腕経営者としての存在を世界に再認識させ、メディアの目を長く自分に向けておくためだったとしたら――。
「私は無実のために戦ってきた」と話し始めたゴーン氏は、1時間にわたって企業のプレゼンさながら持論を展開した。前半は逃亡を正当化するため「もっとも基本的な人権の原則に反する日本の司法システムに光をあてる」と主張し、日本の制度批判に割かれていた。