18歳から続けてきた習慣は由規にとって「お守り」
増渕竜義と鬼気迫るキャッチボールをしていたあの日の練習終了後、由規にインタビューをした。その際に、「ちょっと下らないことかもしれないけど……」と前置きして、少しはにかんだ表情で、当時18歳の由規は言った。
「自分は、練習などはキッチリやらないと気がすまない性格なんで、何事にも妥協したくないんです。たとえばダッシュ10本の練習があったとしたら、自分の場合は11本やるようにしています。必ず決められた本数よりも少しずつ多めにやるようにしているんです」
ここまで話すと、はにかんだ表情から、少し照れくさそうな表情に変わった。
「そうすれば、“これだけやったんだから試合でもできる”という自信も得られますよね。余計にやった1回分は、自分にとってのお守りのようなものなんです。日頃から、キッチリと練習をしていれば、必ずご褒美が返ってくるんじゃないか。昔から、そう考えて満足するタイプなんです。結局は自己満でしかないんですけどね(笑)」
昨年の復帰登板後、久しぶりに由規に「お守り」のことを尋ねてみると、あの頃よりも、ずっと大人になった表情で由規は言った。
「はい、今も変わらないです。ずっと苦しいリハビリをやってきましたけど、自分のモチベーションを上げるためのひとつの方法として、今でも同じ考えです。……でも、結局は自己満でしかないんですけどね」
ルーキーイヤーと同じ言葉を口にして、由規は笑った。17年5月17日、由規は巨人を相手に7回2安打無失点に抑える好投を見せ、勝利投手となった。
5年にわたる空白期間においても、彼は懸命に「お守り」を集め続けた。自らのたゆまぬ努力と周囲の支えとともに、由規が帰ってきた。これを感動と言わずして、何を感動と言えばいいのか。これからも、万感の思いを胸に、由規の復活への道のりを見続けていきたい。真の復活の瞬間が、刻一刻と近づいている。
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