いまから71年前のきょう、1946(昭和21)年5月23日、映画『はたちの青春』(佐々木康監督)が公開された。同作は日本映画で初めてキスシーンが演じられた作品とされる。撮影後、主演の幾野道子は「お仕事だと割り切って、目をつむって夢中でした」と語り、相手役の大坂志郎は「接吻とは消毒臭いものでした」と感想を述べた。これは、演じるにあたり2人の間にオキシドールを染み込ませた小さなガーゼを挟んでいたためだ(講談社編『昭和 二万日の全記録 第7巻 廃墟からの出発』講談社)。
キスシーンが撮られたのは、このころ占領政策を推し進めていたGHQの指導による。そこには、「日本人が恋愛、情愛の面でもこそこそすることなく、堂々と自分の欲望や感情を人の前で表明することが、日本人の思想改造に不可欠」といった思惑があったという(平野共余子『天皇と接吻 アメリカ占領下の日本映画検閲』草思社)。『はたちの青春』のキスシーンを、観客は興奮と困惑とともに受けとめた。映画人や評論家のあいだでも、歓迎する声がある一方で、物語上「必然性を欠いている」などといった批判もあった。