前川喜平 前文部科学事務次官
「『総理のご意向』などと記された一連の文書は、私の手元にあるものとまったく同じ。間違いなく本物です」

『週刊文春』6月1日号

記者会見で「週刊文春」を手にする前川前次官 ©時事通信社

 学校法人「加計(かけ)学園」をめぐる問題が新展開を迎えた。加計学園が愛媛県今治市に獣医学部を新設する計画について、安倍晋三首相の「腹心の友」加計学園理事長、加計孝太郎氏に便宜が図られたのではないかという疑惑が巻き起こっている。獣医学部新設にあたり、37億円の市有地が無償譲渡され、総事業費の半分の96億円を愛媛県と今治市が負担する。さらに開学すれば助成金など多額の公金が加計学園に流れることになる。

 関与を強く否定した安倍首相は「働きかけがあれば、責任を取る」と明言していたが、内閣府から文部科学省に対して「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」と圧力をかけるような言葉が記録されている文書の存在が発覚した(朝日新聞 5月17日)。

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 これに対して即座に記者会見を開いた菅義偉官房長官は「怪文書みたいなものじゃないか」と全面否定。文科省も調査を実施したが、5月19日に「行政文書としても、個人の文書としても、今回の調査を通して確認が取れなかった」という結論を発表した。ただし、調査はわずか半日しか行われず、しかもヒアリングと共有フォルダ・ファイルのみにとどまったため、「調査は不十分」という批判の声も上がっていた(BuzzFeed NEWS 5月24日)。

「前次官独占告白」の衝撃

 しかし、今年1月まで文部科学事務次官、つまり大学認可の権限を持つ文科省の事務方トップだった前川喜平氏が『週刊文春』6月1日号の独占取材に応えて、件の文書を「間違いなく本物」と証言したのだ。

 さらに前川氏は5月25日に記者会見を開き、文書に関して「私が在職中に作成され共有された文書で間違いない。文科省の幹部に共有された文書で、自分も受け取った。ちゃんと捜索をすれば出てくるはずだ。あったものはなかったことにできない」と述べている(AbemaTIMES 5月25日)。

 なお、件の文書以外にも、記録文書や新たな証言が続々と示されている。

 5月22日、共産党の小池晃書記局長は新資料を公開した。「政府関係者から入手した」(小池氏)という資料には、「今後のスケジュール」と題されて昨年10月から来年4月の開学予定に至る政府内の大まかな段取りが掲載されていた(時事通信 5月22日)。

菅官房長官 ©JMPA

 また、5月24日には民進党の桜井充参院議員によって昨年11月に文科省内でやり取りされたとされるメールのコピーが公開されている。国家戦略特区諮問会議は2016年11月9日に、52年ぶりに獣医学部の新設を認める方針を決定しているが、その前日の8日に文科省内で取り交わされたメールでは「現時点の構想では不十分だと考えている」などと書かれており、文科省が獣医学部の新設に直前まで反対していたことが窺える(TBS NEWS 5月24日)。

 同じく24日、当事者の一人である愛媛県の中村時広知事は記者会見で、内閣府から助言を受けていたことについて発言。「構造改革特区と国家戦略特区の窓口が一体化するので、そこに申請をしたらどうかと言われ、助言と受け止めた」(中村氏)。助言通りに申請したところ、国家戦略特区として認められたという。なお、23日に内閣府の藤原豊審議官は参院農林水産委員会で「そういった事実はない」と否定している(共同通信 5月25日)。

 今後も新たな証拠は出てくるだろう。「加計学園ありき」の疑念は深まる一方だ。