前川喜平 前文部科学事務次官
「『赤信号を青信号にしろ』と迫られた時に『これは赤です。青に見えません』と言い続けるべきだった」
『週刊文春』6月1日号
今治市と加計学園はこれまで15回にわたって獣医学部設置の申請を行い、すべて却下されてきた。しかし、2016年8月、地方創生相に山本幸三氏が就任してから一転して、内閣府は獣医学部新設に前のめりになっていく。山本氏は「首相のイエスマンのような存在」。先日、「学芸員はがん。一掃しないと」という問題発言で注目を集めた人物だ。『週刊文春』ではこのときの経緯について、前川氏の証言をもとに詳細に明らかにされている。
2018年4月開学については、松野博一文科相をはじめ文科省側から「必要な準備が整わないのではないか」と懸念が示されていたが、強気の内閣府は引き下がらなかった。理由は「総理のご意向だと聞いている」。これに対して前川氏は「ここまで強い言葉はこれまで見たことがなかった。プレッシャーを感じなかったと言えばそれは嘘になります」と述べている(『週刊文春』6月1日号)。
内閣府は時間のかかる手続きを省き、一気呵成に進めよと文科省に迫り続けた。「赤信号を青信号にしろ」と迫られたのだ。記者会見で前川氏は、「極めて薄弱な基準で特区が制定された。公平公正な審査がなされなかった。文科省として負いかねる責任を押し付けられた。最終的には内閣府に押し切られた」と述べている(AbemaTIMES 5月25日)。結局、加計学園側の希望通り、異例のスピード認可となった。
「証人喚問に出てもいい」
ならば、前川氏を国会に招致して、これまでのことを明らかにしてもらったほうがいいのではないだろうか。前川氏本人は記者会見で「証人喚問に出てもいい」と明言している。
民進党が参考人招致を要求したが、与党は拒否。その後、共産党の小池晃書記局長が証人喚問を要求した(時事通信 5月25日)。5月26日にも民進党の山井和則国対委員長から前川氏の証人喚問が要求されたが、自民党の竹下亘国対委員長は前川氏が民間人であることから「現職の時になぜ言わなかったのか」「受け入れられない」とあらためて拒否した。山井氏は「民間人の(森友学園の)籠池泰典氏を喚問したのは自民党だ。ご都合主義としか言えない」と批判している(時事通信 5月26日)。たしかに「(前川氏が)民間人だから」という理由は筋が通らない。
そういえば、籠池氏の証人喚問が決定した際、竹下氏は「総理に対する侮辱だ。(籠池氏に直接)たださなきゃいけない」(朝日新聞 3月16日)と激怒していた。ということは、前川氏が安倍首相を侮辱すれば証人喚問は実現する……?
前川氏は今年1月に文科省を辞任した際、全職員にメールを送っている。その中で、「特に、弱い立場、つらい境遇にある人たちに手を差し伸べることは、行政官の第一の使命だと思います」「気は優しくて力持ち、そんな文部科学省をつくっていってください」と記していた(朝日新聞 1月20日)。一体、文科省は誰を見て仕事をしているのか? そのことが強く問われる数日間になりそうだ。
◆
共謀罪法案通過への、強烈な批判発言
ジョセフ・ケナタッチ 国連特別報告者、マルタ大教授
「日本政府のこのような振る舞いと、深刻な欠陥のある法律を性急に成立させようとしていることは、断じて正当化できません」
BuzzFeed NEWS 5月23日
加計学園問題で霞んでしまった感のある「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案、いわゆる「共謀罪」法案。5月23日午後、自民、公明、日本維新の会の賛成多数で衆議院本会議を通過した。
この法案をめぐる日本政府の対応を、国連特別報告者であるジョセフ・ケナタッチ氏(マルタ大教授)が批判、5月18日付で書簡を安倍首相宛に送付した。国連特別報告者とは、国連人権理事会から任命され、特定の国やテーマ別に人権侵害の状況を調査したり、監視したりする専門家のこと。
書簡でケナタッチ氏は、同法案がプライバシーや表現の自由を制限するおそれがあると指摘。法案にある「計画」と「準備行為」の定義があいまいであることと、対象となる277の犯罪にはテロや組織犯罪と無関係なものがあることから、法律が恣意的に適用される危険性が高いと懸念を示した。
菅官房長官はケナタッチ氏の書簡に強い不快感を表明し、記者会見では外務省を通じて「抗議を行った」と語気を強めて繰り返した。しかし、日本側の抗議を見たケナタッチ氏は「中身のないただの怒り」と批判。内容は本質的な反論になっておらず「プライバシーや他の欠陥など、私が多々挙げた懸念に一つも言及がなかった」と指摘した(中日新聞 5月23日)。
政府側は以前からこの法案について、2020年の東京オリンピックに向けて国連越境組織犯罪防止条約を批准するために必要だと説明してきたが、ケナタッチ氏は「このことは、プライバシーの権利に対する十分な保護もないこの法案を成立することを何ら正当化するものではありません」と一刀両断。さらに「私は、安倍晋三首相に向けて書いた書簡における、すべての単語、ピリオド、コンマに至るまで維持し続けます」と強い調子で再反論を行った(産経新聞 5月23日)。菅官房長官は再度不快感を表明しており、両者の会話はまったく噛み合っていない。
それにしても最近の安倍政権は、次から次へと問題が起こり、ナチュラルな目くらましになっている感がある。加計学園問題とともに、「共謀罪」法案にも注視が必要だ。