とはいえ、です。
別に、「働きたくない」と言っているわけではなく、もうすこし身の丈と言いましょうか、自分の体力とキャパシティーにみあった仕事をしたい。そして、どうせなら仕事を楽しみたい。
一度は、いや、二度か三度くらいは天職と思った記者の仕事。人に会って話を聞き、文章にまとめる。単純な仕事かもしれませんが、辞めてもなお面白いと感じるので、似たような仕事がしたいと思いました。
海外でこうした仕事がしたいとなると、まず思いつくのは日本語のフリーペーパーです。
前回、帰国後の就職を考えると、アドバンテージにならないので「日本語のフリーペーパーの仕事はおススメしない」と転職エージェントのDODAの方に言われたわけですが、どうせ働くならしたい仕事をしようと、中国や東南アジアでフリーペーパーを発行している企業の編集職を受けることにしました。
書類選考を突破し、海外企業を受ける際おなじみのSkypeを利用して、一次面接スタート。ですが、とにかく通信状況が悪い。台湾とつないでの面接だったのですが、ブツブツ途切れます。
それでも何とか完遂された面接で、担当者から「台湾で、営業から」と説明を受けます。アレ? 私今回、東南アジア、編集職希望で出したんだけどな?
「今回、台湾が新規スタートで人員を募集することにしたんですよ」と面接官。そんなこと募集要項に一つも書いてなかったよね? と思わずツッコみたくなりますが、「希望を出せば東南アジアで編集職も出来る」と言われ、辞退せずにこのまま次の面接に進んでみることにしました。
次の面接もSkype。相手は社長です。これが最終面接とのこと。
Skype越しのロールプレイ面接!?
すこし雑談をした後、画面の向こうの社長はボールペンを見せ、こう言いました。
「百貨店の文房具の販売員という設定で、ボールペンを私に売ってください」
パニックです。完全なる不意打ちです。まさかSkype越しにロールプレイをさせられるとは思ってもみませんでした。とは言え、考えてどうにかなるもんでもないので、とりあえず始めます。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「ボールペンが壊れたので、新しいものを買おうと」
「そうなんですね。ご予算は?」
「1000円程度かな~」
「それでしたらこの辺りの商品が、ご予算に合ったものですね。何かこだわりなどございますか?」
「いえ、特には」
「お仕事用ですか?」
「ハイ」
え~。何ススメたらえ~ねん! だって、目の前に何もないんだよ!? 大体ボールペンのことなんて詳しくないし!
ヤケクソです。
胸元からボールペンを取り出すしぐさをします。
「でしたらこちらはいかがですか? 私も使っているんですが、書き味がなめらかで一押しです。それに、お値段もそこまで高くないんですよ。お仕事用だと、よく使うからあまり高くないほうがいいですよね」
「はい、ここまでで」
社長のその言葉で、ロールプレイは終わりました。もう、頭が真っ白です。手汗もすごいし。
「よかったと思いますよ。営業やったら、上位20%になれる人だと思いました」
ホンマか!? どこにいいところがあったんだ!? めっちゃ声がうわずってたぞ!
「営業の経験あるんですか?」
「いえ、ただ、百貨店でアルバイトをしたことがあったので、そのときを思い出しながらやりました」
「そうなんですね。よかったんですが、アドバイスを2点。『書いてみますか?』と試してもらう。最後には『買いますか、買いませんか』と意思確認したほうがいいですね」
へ~。営業ってそんな感じなんだ。参考になります。でも、百貨店で最後に「買いますか、買いませんか」って聞かないよね、普通。
しかし、何が役に立つかわからないものです。まさか転職活動で、フリーター時の経験が役に立つとは思いませんでした。
ありがたいことに後日、内定を頂けましたが、どうしてもこのロールプレイのインパクトで「この会社ではやっていけない気がする」と思ったのと、条件面で折り合わず辞退しました。
それにしても、転職活動を通して、いちばん記憶に残る面接でした。営業の人って、こんな面接が普通なんでしょうか。普通じゃないことを祈ります。普通なら、今まで以上に尊敬します。
キヨシマの転職活動メモ
一、転職活動、意外な経験が役立つこともある。
※この連載は、新聞記者として5年働いたキヨシマによる、「脱力系」転職活動記です。書かれていることは全て現在進行形のノンフィクションです。