経営はアートでもある
私には今までお世話になった経営者の方々がたくさんいます。サントリーの佐治信忠さん、三菱商事の佐々木幹夫さんや小島順彦さん、オリックスの宮内義彦さん、ウシオ電機の牛尾治朗さん、キッコーマンの茂木友三郎さん、ダイエーの中内功さんなど、多くの方々から薫陶を受けました。
彼らに教わったのは、経営はロジックであり、論理的にやるためにはアカウンタビリティが必要だということです。しかし、他方で彼らのビヘイビアを見ていて感じたのは、経営はアートでもあるということです。
そもそも人間はエモーショナルな動物です。好き嫌いがあり、イヤなものはイヤです。でも、それは余裕があるからこそ、イヤということが言えるわけです。余裕がなくなったら、イヤとばかり言っていられません。私は給食事業をやっていたとき、経営で切羽詰まっていましたから何でも受け入れようと思っていました。ローソンのときも同様です。だからこそ、社員たちを信じて、責任を背負い込まなければ、経営者として本当に大きな仕事、いわば、アートのように見える仕事はできないのです。こうした経営の真髄というものは、ビジネススクールでは教わることはできません。
日本人は目標に向けて一致団結して、やれる力を持っています。今までと異なる視野をいったん受け入れたら、一気呵成に進んでいきます。この力は本当にすごい。だからこそ、日本の会社は、社員が海外に出ていく機会をもっとつくるべきですし、海外から来る人たちを受け入れて、互いにアウフヘーベンしていくことが大事になっているのです。
聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)
新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長
1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。