※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2017」に届いた約100本の原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】KITEN!副店長(きてん!ふくてんちょう) 広島東洋カープ 30代
 高円寺のスポーツ居酒屋『KITEN!』の副店長と申します。新潟県出身のファン歴20年の三十路です。「新潟でカープ?」そんな疑問をお持ちの方、今まで何度も投げかけられたこんな質問にお答えします。「現1軍投手コーチ新潟出身の小林幹英さん好きです!」、「98年新人王は幹英さんです!!」。分かって頂けたでしょうか? まだ強いカープに慣れない、いや慣れてはいけない!!! 俗に言われる日本一を知らない世代です。

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丸佳浩の地元・勝浦へ

 惜しくも2位に終った広島東洋カープの交流戦だが、豪快に打ちまくり、首位打者に輝き、キャリアハイどころか打撃タイトルの頂きも掴み取れそうだと期待させてくれる今年の丸佳浩。1年以上ほったらかしだった頭、散髪するなら今しかない! そしてここしかない!! 房総半島の南東部、太平洋に面した港町の勝浦を訪れた。

 都内から電車を乗り継ぎ2時間半、改札を抜けるとこちらも惜しくも敗れはしたが全日本大学野球選手権で活躍した国際武道大学の準優勝を祝う横断幕を拝む事が出来た。「お互い次は優勝だ!」と心のうちで呟いた。

国際武道大学の全日本大学野球選手権準優勝を祝う横断幕

 到着は昼過ぎ、一先ず海岸沿いに出よう! でもスマートフォンの地図アプリは極力使用しない。前評判の高い選手よりも、手探りで歩き回り見つけ出した選手が活躍する方が嬉しくないだろうか? 高卒、大卒よりも社会人卒選手が活躍した時の方が沁みる。苦労した方が喜びは大きい。昨年の25年振りのリーグ制覇は正にそれ。気分は苑田聡彦スカウト部長で目指すは勝浦港。素人考えだが、風を頼りに歩けば行き着くはずだ! 日差しは都内よりもちろん強いが、風を感じ歩くと自然と丸佳浩の応援歌「颯爽と駆け回れ♪」このメロディーがにわかに思い出される。そうこうしてると何とか勝浦港に辿り着く。

 再び歩き始めて気付いたのだが、町のあちらこちらで見かける赤いのぼり。「勝浦タンタンメン」。タンタンメン=赤。食さない理由はない。食堂に入り注文すると、赤いそして美味い。タンタンメンには欠かせない練り胡麻を使用していないので、表面はラー油の赤一色。元々は海女・漁師が寒い海仕事の後に、冷えた体を温めるメニューとして定着したそうで、ご当地グルメの祭典で有名なB-1グランプリに何度も出場されている。調べてみると2011年初出場7位、2年目8位。力及ばず敗退。まるであの頃のカープの様だ。いや待て、丸の出始めと酷似している。

2015年にB-1グランプリに輝いた勝浦タンタンメン

 前年1軍初昇格で迎えた2011年は丸の1軍元年とも言える。131試合出場し1年目としては上々。迎えた翌年、前半戦の丸は不調、後半は調子を取り戻すが、前年を下回る106試合出場。あの頃は今では考えられない程、打てなかった。鈴木誠也も田中広輔も、ましてや新井さんなんていなかった。だから僕らは売出し中、丸佳浩のバットにそりゃあ、もう期待した。

 その後、2015年勝浦タンタンメンは悲願のグランプリを獲得したそうだ。MAZDA Zoom-Zoom スタジアムでは選手プロデュースフードを食べることが出来るが、丸のプロデュースは「まるまるクレープバナナ」。何故だ!? 球場飯には持って来いではないだろうか? 「まるまるタンタンメン」、球団関係者の方お願いします。

 腹ごしらえも済みようやく本日の目的地、丸佳浩選手のご両親が営む理髪店『カットサロンまる』に到着。

『カットサロンまる』で丸ヘアに

『カットサロンまる』の店内写真

 選手のご両親に散髪して頂く経験があるはずもなく緊張しながら店内へ。お店の所々に丸の写真やユニホーム、スラィリー人形が見渡せ一気にホーム。

 第一声はこちらのカープ帽を見て、「広島からですか?」。すいません都内からです。広島出身でもないです。と思いながらも、広島から来店される方がいる事に驚いた。

「息子さん位、短くお願いします」。逆の立場なら困るであろうカープファンの無茶な要望にもカープエプロン姿のお父さんには快く答えてくださり、散髪頂く。カープファン来店で出てきてくれたお母さんが「あらバッサリ」とまさにバッサリ言い放って用事のため外に出かけられた。

 この日、唯一の心残りはお母さんが出掛けてしまったこと。お母さんは、カープファンなら一度は視聴してみたい丸佳浩10割DVDの作成者なのである。他球団ファンの方に説明します。丸佳浩10割DVDとはその名の通り息子丸佳浩の安打シーンだけを編集収録した丸愛に溢れたDVDである。せめてお父さんに存在の有無だけでも聞けば良かったのだが、散髪中のお父さんは気を使ってくれまして自然と話題はカープや交流戦談義、いや息子佳浩談義へ。

今季、絶好調の丸佳浩 ©文藝春秋

私「今年は好調ですね。あの試合は負けて悔い無しでしたよ!」

丸父「3打席目は凄かったですね。人間あんな事出来るんですね」

 6月16日ソフトバンク戦の3打席連続ホームラン。あなたの息子ですよ!思わず返したくなったが、息子の活躍ではなく、カープファンが丸を評するかの様に話されたのが非常に印象的だった。