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星野仙一の“遺言”

©竹内茂喜

「ここで表彰されるのも何か不思議な縁があるという気がしてならない。野球に感謝したい」と、星野さんは感慨深げな表情で殿堂入り挨拶を述べた後、さらに彼らしい独特な言い回しで詰め掛けたファンに声を届けた。

「ここに来ると野球ファンというより中日ファンに小言を言いたいなと。こんなに(ファンで)いっぱいのナゴヤドームは最近、見たことがない。もっともっとドラゴンズを応援して下さい。甲子園も、仙台のコボスタもいつも満員ですよ。ここだけガラガラ。皆さん、ドラゴンズを応援してあげて下さい」

 この挨拶、私はドラゴンズへの星野仙一の遺言ではないかと感じた。そう捉えた。もうたぶんドラゴンズのユニホームを着ることはないだろう。だから殿堂表彰という最高の場を借り、今まで応援してくれたファンへ、そして育ててもらったドラゴンズへの御礼を自らの声で届けたい、そう聞こえた。そうとしか聞こえなかった。座っている席からは、星野さんは背を向け、遠くに立っている姿しか見えない。でも近い場所で正面の姿を見なくて良かった。もし一目でも見たならば、酒臭い50過ぎのおっさんが嗚咽して泣く姿を晒したと思う。

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星野仙一の魂は今もドラゴンズに引き継がれている ©文藝春秋

 殿堂表彰が終わった時、何故だかすっかり酔いが醒めていた。お祝いするつもりがなんだか告別式に参列している気分。今日の今日まで困ったことがあればすぐに頭に浮かんだのは星野さんの笑顔。ドラゴンズが低迷する度、いつも立て直してくれると信じて止まなかった。その思いも今日で終わりにしたい。いつまでも星野さんに頼っていては先に進まない。これからは星野イズムを継承した山本昌なり、立浪、川上らがいる。きっと星野さんなら笑ってこう言うはずだ。

 今まで教えたことを次の世代に伝えろ。そして困った時にはこう言えばいい。

 なんとかせいっ! と。

 野球というボールゲームは人を育て、人を成長させる。星野さんから授かった闘志を決して絶やすことなく、後世のドラゴンズに継いで欲しい、ただただそう願うばかりである。

編集部注)一部不適切な表現があり、8/4に該当部分を削除いたしました。

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