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露と消えた「エース」誕生の瞬間

昨年オフにFAで巨人に移籍した山口俊 ©時事通信社

 夢見ていた。

 大入り満員のハマスタで、山口の名がコールされる。小さな子どもからじーちゃんばーちゃんまで、笑顔で叫ぶ。

「アイセイヤマグチ、ユーセイシューン」

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 落差の大きいフォークにバットは空を切る。時々四球は出すけれど、それもご愛嬌。8回9回になっても球速は落ちることなく、山口登板の日は「ヤスアキジャンプできないねぇ」とファンはちょっぴりがっかりする。

 優勝、最多勝、沢村賞……いや何よりファンが待ち望んでいたベイスターズの「エース」が誕生する瞬間を、夢見ていた。

「紳士たれ」とは……おそらく深い言葉だろう。私には正直よく分からない。ただ山口は、その持って生まれたポテンシャルに対してだけは、紳士、いや真摯でなければいけないんじゃないのか。球速157キロ、出したくて出せるもんじゃない。完投能力、誰にでもあるもんじゃない。野球の神様はそれを他の誰でもない、山口に与えたんだから。絶対に裏切っちゃいけないんだよ、そこだけは。三浦大輔がノドから手が出るほど欲しかったものを、山口は持っていた。だから山口、番長はアンタに夢見た。アンタに託した。自分が果たせなかったことを。たとえその夢をかなえる場所がベイスターズじゃなかったとしても。

 熱は下がったけど、まだ頭痛は続いてる。夏風邪は厄介だ。ただ一つの救いは、夢の中の山口がニヤニヤしていたことかもしれない。もし泣いてでもいたら、それこそもう、ただの夏風邪じゃ済まなくなる。

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