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別れたあとに「もっと仲良くすればよかった」と思ってしまうことがある

 好きなことであり、打ち込むと決めたことなので、執筆は必ず毎日する。

「メモ程度のときもありますが、一応毎日、机に向かって書くようにしています。日記みたいなものでもあり、トレーニングの意味合いもありますね。1日でもサボると、嫌になって怠けてしまいそうで。歯磨きや髭剃りなんかも、習慣にしないとつらいじゃないですか。それと同じ感じです。

 ですからじつは、受賞が決まって会見のあった日も、お祝いの席が終わりホテルに戻ってから、書こうと試みはしました。でも、難しいですね。受賞で重圧が増してしまったこともあって、次作を書き進めたいのになかなか進まない。結局、独り相撲をし続けて、一睡もできませんでしたが。

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 ふだんは、いったん書き始めると、けっこう長く続けますね。そんなにぐっと集中するわけではないですが。なんとなく座っていて、あれこれ考えて、数行書いて、つい音楽を聴いたりして、また書いて……。といったことを延々と繰り返しています」

 音楽はどんな種類のものを?

「最初に触れたものに愛情を注ぎ続けるクセがありまして、音楽も高校時代に聴いたものをいまだに繰り返していたりします。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどのニューヨークパンクですとか。クラシックも好きで、夏になるとモーツアルト、冬にはワーグナーと、季節によって聴き分けたりします」

記者会見に応じる沼田さん ©文藝春秋

 他に息抜きの手段は?

「気分転換に車を運転することが多いです。近所の牧場へ行って、ただぼんやり馬やヤギを見たりしています。あとは季節ごとに、夏は虫取り、秋はキノコ狩りにも。要は住んでいるところの周りが、自然だらけということなんですが。

 映画もよく観ます。新しいものよりは、古いものを。『オペラ座の怪人』や『メトロポリス』なんかがお気に入りですね。あと、『バットマン リターンズ』ですね。あそこに出てくるキャット・ウーマンやペンギンに親近感があって、会ってみたい人といえばその2人です。いや、まあ会えるわけはないんですが」

 加えて、当然ながら本を読む機会も多い。

「ジャンルを問わず読むのは大好きだったんですが、小説を書くのが仕事になると、読むことを趣味とは言えない雰囲気になってしまってつらい。純粋に読むという楽しみを奪われてしまった感じです。

 小学生の頃はモーリス・ルブランの『アルセーヌ・ルパン』シリーズなんかが好きでした。そのあとは翻訳ものの文体に憧れて、フランスと米国の文学をよく読んできましたね」

 文學界新人賞受賞時のコメントでは、ヘミングウェイの短編『何を見ても何かを思いだす』に言及していた。

「ヘミングウェイに直接影響を受けたということではないんですが、タイトルになっているこの言葉、まさに自分がそういうタイプだなと思ったので。つい、思い出すことに重きを置いてしまうんです。友達でも恋人でも人間関係全般において、付き合っていたり遊んでいたりするそのときは、どうしても相手と壁を作ってしまう。それなのに、離れ離れになったあとで、『あいつ、いいやつだったな』とかしみじみ思い出に浸ってしまう。一緒にいるときにもっと距離を詰めて仲良くすればいいのに、そうできなくて、いつだって喪失感があるんですよ」

 他者との不思議な距離の取り方は、作品にも色濃く滲み出ている。主人公・今野の人付き合いの方法や佇まいは、沼田さんのそれと相似形を成す。

「やっぱりそうですかね。まあもちろん、自分が書いたどんな人物も、自分のことを反映した分身になるのは、ある程度しかたのないことだとは思います。

 いえ、本当はもっと積極的に人との関係をリードするような自分に憧れたりもするんですけどね。挨拶がわりや喜びの表現として、ハイタッチしたりとか(笑)。そのうちやってみたいです」

 8月には芥川賞贈呈式がある。ひょっとするとその場で、喜びを爆発させた沼田さんのハイタッチが見られるか。

影裏

沼田 真佑(著)

文藝春秋
2017年7月28日 発売

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