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野球のエッセンスを感じたシーン

 メンドーサは初回、浅村栄斗に先制ソロを喫した以外は安定していた。試合はつくれる投手なのだ。勝てる投手かというと微妙だが、いいときはそこそこの失点で5、6回までもたせてくれる。圧倒的な力で抑え込むわけじゃない。打たせて取るタイプ。今季の特徴としては何か突然おかしくなるのだ。大柄でハンサムで、余裕の笑みを浮かべながら、急に色んなことがうまくいかなくなる。だから「相手投手より先に点を与えたくない」みたいな緊張の維持が不得手だ。きっと大らかでいいヤツなんだと思う。この試合も1巡目までは順調だった。

 野球はわからないよ。4回裏、浅村をゴロアウトに仕留めた後、突如、メンドーサが制球を乱す。そこまで全く危なげなかったのだ。いきなり抑えがきかなくなる。メヒア、中村剛也、栗山巧を三者連続四球だ。別に何がきっかけということでもなさそうだ。こう、平らな道で自分で自分の足につまづいて転ぶようなことだ。それも3回続けて転ぶようなことだ。メンドーサのなかで何か目盛りが違っちゃったんだと思う。

 僕は野球が好きな人は逆転サヨナラ満塁ホームラン的な「神ってる」の不思議さも知ってるけれど、うまく行ってたことが突然何の前触れもなくおジャンになってしまうような「神ってる」も何度も経験すると思う。人知を超えた何かだ。人間の努力ではどうしようもないようなこと。偶然と必然が綾なすベースボールの神秘。僕はこれを必然の側からだけ理解しようとしても(「負けに不思議の負けなし」という立場)、結局はかなり大きなものを掬(すく)い損ねる気がする。

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 メンドーサにはなぜ三者連続四球を与えたか自分でわからないだろう。なぜツーシームが逸れてしまったかわからないだろう。メンドーサ以外の全員が反応する。ベンチはもちろん、内野指定席Bのお父さんも外野自由席の若者も色めきたつ。何でかっていうと皆、経験で野球は夕立ちみたいなものだと知っているから。理由はわからないが、ザァーッと来るのだ。色んなことが急に始まる。

 僕はブルペンに注目していた。三者連続四球のどこでブルペンが動きだすか。メヒアが歩いて、次の中村剛也にストライクが入らないと見た瞬間だった。大あわてで鍵谷陽平がキャッチボールを始め、すぐに捕手を座らせた。遅れて左の公文克彦もキャッチボールを始めた。マウンドではメンドーサが指先に息を吹きかけたり、ズボンの端で拭いたり、グラブにポンポンとボールを叩きつけてみたりしている。吉井理人コーチがたまらず飛び出していく。一死満塁だ。そして外崎修汰の1、2塁間を割る2点タイムリー。

 僕が野球のエッセンスを感じたのはこのシーンだった。あとは総じて力通りに決まった。この試合は5対8まで追いすがったからよくやったほうだ。

 こりゃまいったなぁと思ってたら、20年来の友人、野球防具メーカー「ベルガード」の永井和人さんから「今日行ってたんですか。僕は明日行ってメヒアに届けものをします」とLINEが入った。「ベルガード」は大リーグにヘビーユーザーを持つ(例えば2017オールスター戦のMVP、ロビンソン・カノ)埼玉の小さな会社だ。ファイターズは悪夢の「炎獅子ユニ」登場の西武戦、ボコられて3タテを食らうのだが、その背景にはメヒアがいた。永井さんから送られたきた写メを掲載しておこう。23日の試合を終えて、西武戦の対戦成績は2勝14敗である。1試合平均失点は6点を超える。

メヒア防具の写真 ©えのきどいちろう

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/3527でHITボタンを押してください。