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「今さえよければそれでいい」社会が“サル化”するのは人類が「退化のフェーズ」に入った兆候

内田樹インタビュー「サル化」が急速に進む社会をどう生きるか?

2020/02/29
note

さっぱり楽しくない「気まずい共生」とは?

 

――そうした時間意識が社会の分断化をより強めてきたようにも思います。どうしたら互いに溝の深い人々とも同じ共同体を形成することができるのでしょうか。

内田 哲学者のオルテガ・イ・ガセットが言うとおり、「敵と共に共生する、反対者とともに統治する」というのがデモクラシーです。だから公人たる者は反対者たちの意向も代弁して集団の利益を代表するのが仕事であって、自分の支持者の利益を代表するわけではない。それがいまや、デモクラシーというのは多数決のことだというシンプルな理解が支配的になった。選挙結果が51対49だったら、敗けた49についてはまったく配慮する必要がないと公言するような人物が首長になったり議員になったりしてる。彼らは自分が公人であるという自覚がない。自分の支持者を代表しているだけなら、「権力を持った私人」でしかない。

 デモクラシーの原点に立つなら、公人たる者は、自分の個人的な思いは痩せ我慢してでも抑制して、異論と対話して、反対者と共生する作法を学ばなければいけないと思います。それが本書にも書いた「気まずい共生」ということです。「気まずい」わけですから、さっぱり楽しくない。合意形成にもやたら時間がかかる。でも、それがデモクラシーのコストなんです。デモクラシーのコストを引き受ける気がないなら、独裁制か無秩序か、どちらかを選ぶしかない。

内田樹(うちだ・たつる)
1950年東京生まれ。思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論など。『私家版・ユダヤ文化論』で小林秀雄賞、『日本辺境論』で新書大賞を受賞。他の著書に、『ためらいの倫理学』『レヴィナスと愛の現象学』『街場の天皇論』『そのうちなんとかなるだろう』、編著に『人口減少社会の未来学』などがある。

サル化する世界

内田 樹

文藝春秋

2020年2月27日 発売

「今さえよければそれでいい」社会が“サル化”するのは人類が「退化のフェーズ」に入った兆候

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