プロ野球の暗黙のルール
前回に少し触れましたが最近のプロ野球ではもみ合い、いわゆる乱闘騒ぎが少なくなりました。これは選手の意識が高まり、プレー中の相手に対するいたわりの気持ちが浸透しているのもひとつの要因かと思われます。試合が中断し、にらみ合うシーンは後味も良くありません。ましてや殴り合いでケガなど負ってはチームに大きく迷惑をかけることになります。
2010年4月9日、千葉マリンでのロッテ対西武戦の出来事。初回、3ランを放ったロッテ・神戸拓光が喜びのあまり1塁ベンチ前で右翼席に向かって「M字開脚」のポーズを披露してしまいました。当然ながら西武側は侮辱行為と受け止め、次打席の3回に西武先発・涌井秀章から「故意死球」を受けました。直後、両軍ベンチから全員が本塁付近に集まりちょっとしたにらみ合いに。
しかし、激高していたのはロッテ・金森栄治打撃コーチら数人で、他のロッテナインは「やっぱりな」という表情で冷静でした。神戸自身も試合後に「ライオンズの方々に悪いことをした」と反省。また、こうした「報復行為」の死球はケガをさせないように腰から下に当てるものなのです。この時も神戸の臀部でした。これが、例えば頭付近とかに行けば「過剰行為」として騒ぎも大きくなる可能性がありますし危険が伴います。
このような野球規則に書いてないプレーについては紳士協定として、認知、浸透されています。例えば投手の場合、ピンチをしのいで吼える際は相手打者やベンチに向かって行うのはタブーで、地面に向かって行うのがスマートなのです。2013年の日本シリーズで、楽天・田中将大が巨人のホセ・ロペスと険悪なムードになったのも、三振を奪った時、本塁打を放った時にお互いに相手に向かって吼えあったのが原因でした。
NPBではあまり見かけませんが、MLBでは本塁打を放った際、打者がバットを高々と放り上げる行為は好ましくないとされています。それと、相手投手のノーヒット・ノーランを崩すためのセーフティーバントも姑息な手段とみなされます。このようなケースでは次打席は要警戒になります。それと、本塁や2塁ベース付近でのラフ行為はルールで明確にされているので分かりやすいのですが、難しいのが「大差」のついた試合の終盤のプレーです。ここでのバントや盗塁を行うべきか、どうか。
この「大差」の判断基準が難解なのです。先日、神宮球場でのヤクルト・中日戦で終盤の大逆転がありましたので、「1点でも多く」は分からない気がしないでもありません。しかし、そこまでしても勝ちたいかという、いわゆる「野球観の違い」といってしまえばそれまでですけど。
間もなく夏の甲子園が始まります。試合の進め方は各校の監督の考えが明確に表れます。勝つことだけにこだわるか、良い経験を積ませることが第一か。粗っぽい分け方かも知れませんが、甲子園常連の名門校とそうでない無名校では戦う姿勢が違うように思えるのは先入観からでしょうか。暗黙のルールを履行することによって相手の気持ちを学ばせるのも「教育」だと思いますが、いかがでしょう。