言うことを聞かない、なんだか友達が少ない、こだわりが強すぎる……。そんなわが子の姿を見ると、多くの親は「どうしてみんなと同じにできないの?」と不安になったり、焦ったり。けれど、東京大学先端科学技術研究センターで「異才発掘プロジェクト ROCKET」のディレクターを務める中邑賢龍教授は問います。「ほかの子と同じにすることが本当に必要ですか?」と。子どもとの向き合い方や、これからの教育のあり方について、中邑教授が上梓した『育てにくい子は、挑発して伸ばす』には、これまでの常識に捉われた大人に新たな視点を与える子育てと教育のヒントがつまっています。
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「発達障害」が近年、大きな話題になっています。しかし、私自身は、「変わった子」や「育てにくい子」に「発達障害」という診断名を安易につけて、周囲と別の存在として扱うことには違和感を覚えます。人間には誰しも凸凹があります。得意なこともあれば、不得意なこともある。ROCKETにやってくる子どもたちは、みんな不登校。凸凹とした個性にあふれ、実にユニークです。凹の部分が他の子どもより目立ちやすかったり、多かったり。でも、凸の部分もしっかりと持っています。彼らの凹を埋めることよりも、凸を伸ばしていきたいと考えて、プロジェクトを進めています。
そんな子どもたちを育てる親御さんたちから、相談を受ける機会もたくさんあります。わが子とのコミュニケーションがうまくいかず、「どうすれば、子どもが変わってくれるのか?」と悩む親御さんは、実に多い。でも、その前に、大人の私たちができることを考えてみたいと思います。
まずは、子どもの行動を結果だけで捉えるのではなく、その背景を想像してみることです。たとえば、集団でのプロジェクトの途中に突然席を立ったH君。「どこ行くの?」と聞く私に「外。面白くないから」と言い残して、部屋を出ていってしまいました。身勝手で、理由なくキレる子ども。そう感じたでしょうか。でも、彼にはきっかけや理由があったのかもしれません。少し冷静に彼の行動を眺めてみると、違った側面が見えてきます。
■H君が勝手に出て行く
→行きたいところがあるのかもしれない。
→面白くないのかもしれない。
→音や匂いが気になるのかもしれない。
■H君はあまり挨拶をしない
→実は相手の存在に気づいていないのかもしれない。
→挨拶のタイミングがわからないのかもしれない。
■H君は思ったことを周囲の空気を読まずに発言する
→人と違った視点でその場を見ているのかもしれない。
→しっかりした自分の主張を持っているからこそ、発信できるのかもしれない。
といった具合です。背景をいくつか考えてみると、なるほどと思い当たることがあるものです。