社会の常識を前提とした価値観で子どもを咎めたりせずに、子どもの姿と言い分を受容してやると、子どもはコミュニケーションを続けようとします。受容というのは、放置して諦めるということとは違います。積極的に、子どもを理解して、受け容れていく。子どもはどのように感じているのか、考えているのかに思いをめぐらせて、受け止めることです。お子さんを育てている方には、何があっても子どもを支援する、その覚悟を持ってほしいと思っています。
また、何度注意しても聞かない、約束を守らない。そんなお子さんに困惑した親御さんから相談を受けることもあります。私はまず、親子であっても違う人格を持つ以上、理解し合えないことを前提にしたほうがよいと伝えることにしています。
それに加えて、子どもは注意の範囲が狭く、また一度に覚えられる記憶の量も少ないため、自分の行動の断片を切り取って覚えておくことしかできない場合があります。空想と現実の区別がついていない子どもの場合には、空想したことを主観的な事実として認識していることもあります。
状況を俯瞰してとらえ、出来事を系統だてて記憶できる大人とは違う世界が、子どもの脳内には展開されているのです。
子どもが約束していたことを守らなかった。その時に、大人が自分の主張を頭から否定し、嘘つき呼ばわりすると子どもはひどく悲しみ怒ります。親はきちんと伝えていたとしても、子どもはそれを覚えていられなかった。もしかしたら、親が話している間、違うことに気をとられて、そもそも大事な話をされたという認識すら持っていないのかもしれません。「子どもは、違うように感じているのかもしれない」ということを常に、頭の片隅に置いていれば、必要以上に責め立てたり、子どもを追い詰めてしまうこともなくなります。
ROCKETの子どもたち、親御さんたちと培ってきた経験が、子どもの学びや子育てについて、悩みを抱える多くのお父さん、お母さんの参考になればと願っています。
子どものユニークさ、育てにくさで悩まないでください。むしろ、楽しんでください。ユニークさは宝です。その宝を大切に育てていきましょう。
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中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)
1956年、山口県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野教授。異才発掘プロジェクト ROCKET などICTを活用した社会問題解決型実践研究を推進。共編著に『タブレットPC・スマホ時代の子どもの教育』(明治図書)など。