海上自衛隊は、女性向けの風俗店を経営していた海上自衛隊の幹部を3月10日付けで、懲戒免職処分にした。処分を受けたのは、海上自衛隊の森田哲哉一等海佐(55)。自ら女性客に性的なサービスをして収入を得ていたこの幹部、一体どのような人物なのか――。
この事実が明るみに出るきっかけとなった「週刊文春」2020年2月13日号のスクープを再掲載する。なお、記事中の年齢、日付、肩書などは掲載時のまま。
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「諸官の任務は、国民生活に直結する極めて大きな意義を有する」
2月2日午前、海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」が中東地域へ向かうため、横須賀基地を出航。出国行事で安倍晋三総理は約200人の乗組員にそう語った。
その数時間後、海自幹部が福岡市で……。
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“並外れたテクニック”をウリに……
「並外れたテクニックをウリにしていたので、彼女は複数回利用し、性行為もしたと言っていました。見た目は小太りで中年の“マスター”から、あるとき海上自衛隊の幹部だと明かされて、驚いたそうです」
施術を受けた女性の親友はそう証言する。
利用経験がある別の女性もこう明かす。
「以前は、遊馬佑斗(あすまゆうと)という偽名で営業していたはず。店に連絡すると、彼が対応し、ホテルなどでサービスを受けました」
さる防衛省関係者がこう明かす。
「副業が禁止されている海自の幹部が、15年もの間、女性向け風俗を実質的に経営している疑いがあります。彼は今も身分を隠し、ホームページやSNSで偽名を使って女性向け風俗店の営業を行っています。『女性向け中イキ性感マッサージ』がコンセプトで、驚くことに、実際に施術をするのも、この幹部自身なのです」
〈貴女を癒すやさしさとたしかな技術を持っています〉
〈身長:171センチ 体型:ガチポチャ 職歴:国家公務員を過去に経験〉
こんなプロフィールをブログに掲載しているのは、「フレオナ」なる女性向けの無店舗型風俗店だ。同店のHPやSNSをみると、店の“マスター”として「煌(あきら)ゆう」を名乗る人物が、サングラス姿の自身の写真を掲載し、〈貴女を癒すやさしさとたしかな技術を持っています〉などと、性的なサービスを提供していると記していた。さらに同店は今年2月1日、〈創業16周年を迎えた〉とある。
前出の防衛省関係者によれば、この「煌ゆう」こそが、横須賀基地に勤務する海自の一等海佐・森田哲哉氏だという。
「森田一佐は防衛大学校を卒業後、護衛艦『やまゆき』や補給艦『ましゅう』の艦長などを歴任して、昨年8月から横須賀海上訓練指導隊司令に着任。アフリカへ駐在武官として赴任した経験も持つ、将官一歩手前のキャリア幹部です。ただ、『ましゅう』艦長時代は、統率力のなさから度々部下が不祥事を起こし、広島県の江田島の基地に左遷されました。飲み会では部下に奢らせることもあり、下の者からは『守銭奴』などと呼ばれていました。投資に失敗して北海道にあった家が競売にかけられたとか、女性の噂も度々耳にしたことがあります」(海自関係者)
果たして本当に「煌ゆう」が、海自幹部と同一人物なのか。取材を進めると、冒頭のように女性たちが証言したのである。
「女性の管理人がいるようにHPには書いてありますが、実質的な経営者は“マスター”1人のはず。昼間でも、返信が返ってくるので、最初は自衛隊員という話は嘘だろうと思っていました。ただ、基地や船の中で撮った写真を送ってもらったことが何度かあり、本当に偉い人なんだと思いました。無店舗型風俗なので、営業拠点は彼の勤務地周辺です。転勤の度に営業拠点が移動しています」(他の利用客)
〈午後から戦闘訓練だぽ〉
「週刊文春」は複数の利用者から、メールやLINEを入手。そこには海上自衛隊の訓練内容や、幹部自身の予定がこう記されていた。
〈明日は0800出港、1730入港だぽ〉〈午前中は、戦闘シチュエーションブリーフィング、午後から戦闘訓練(艦内哨戒第2配備、戦闘部署)だぽ〉
また、艦船内で撮影された写真も複数あった。
前出の防衛省関係者が憤って言う。
「隊員の秘密保全を管理監督する立場である幕僚が、職務内容の情報漏洩などの不正を行っていることを見過ごすことはできません」
同店のHPによれば、一風変わったメニューもある。
〈ゆうとスキー・スノボすると、その後は無料でLコース同等のサービスを受けられます。宿泊可能。冬季は、島根県や芸北のスキー場や東京・横浜出張時に上越等で可能です〉
Lコースとは、「ラブコース」(5から7時間で1万4000円)を指しており、更に長時間の「ラブホーダイ」や「サイクリングコース」など複数のメニューを設定。〈中イキ・膣イキの開発・提供をする〉などと謳って対価を得ているようだ。
この風俗店のブログに、「煌ゆう」は2月1日の午前は広島、午後から長崎県佐世保市に1週間出張予定だと記しており、佐世保―福岡間でサービスを提供すると、客を募っていた。
記者が連絡するとすぐに返信が来た
1月末の平日夕方、「週刊文春」男性記者が、HPに記載されたメールアドレスに連絡すると、すぐに返信が来た。
〈初めまして。フレオナの煌ゆう、1964年生まれです〉
そこには特別割引で1万2000円と記してあった。そして、2月2日午後2時、福岡市内にあるホテルのロビーで待ち合わせることに。名前を仮称でいいから教えてほしいと言われたため、「蒲田」と伝え、性別は聞かれなかった。
その後、〈サービスの流れ〉が送られてきた。〈逝く前には、『逝く』となるべく大きい声で言うこと〉、〈約8割の女性はゴムなしでされています〉などと、本番行為を匂わす記載もあった。
待ち合わせ当日――。「煌ゆう」から再びメールが届いたのである。
〈上下紺色です。目印に薄い灰色のマスクをし、頭に黒いサングラスをのせています〉
「森田さん」本名で呼びかけると……
ついに待ち合わせ場所に現れたその男性は、見知らぬ女性に「蒲田さんですか」と話しかけたのである。
そこで記者が「森田さん」と呼びかけると、彼は驚いた様子で、こちらを振り返ったのである。
――週刊文春です。
「週刊文春? はい」
――森田さんが風俗を経営していると聞いたのですが。
「……。特に話すことはありません……。人違いじゃないですか」
――(あなたは)森田さんではないんですか?
「はい……。失礼させていただきます」
動揺した様子でその場から立ち去って行った直後、風俗店のHPやツイッターなどは削除された。
翌日、海上幕僚監部広報室は、こう回答した。
「本人に確認したところ、『風俗店を10年程度手伝ったことがある』と聞いています。(本番行為を行う違法店かは)確認中です。(情報漏洩や勤務中の営業活動、正しく納税しているかについては)現在、確認中です」
だが、「2月2日、森田氏は福岡のホテルにいたか」との質問にはこう回答した。
「週刊誌記者から問いかけがあり、言葉を交わしたことは認めております」
コンプライアンスに詳しい元検事の落合洋司弁護士が解説する。
「自衛隊法第62条で副業禁止が規定されており、許可がなければ、これに抵触します。さらに、艦船の航行予定や練習内容を漏らしていれば、守秘義務違反(自衛隊法第59条)にあたる恐れも高い」
前出の防衛省関係者によれば、森田氏は今年8月に定年を迎える予定だという。中東派遣の最中に起こった幹部の“有事”。防衛省も想定外だっただろう。