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「公式戦でというのは考えづらい」

 ところで、文春野球コラムではたびたびスタジアムDJやMC、場内アナといった様々な肩書を持った方々が自ら書き手となり文字でも情報を発信してきたように、日本のスポーツシーンにおいて彼ら(彼女ら)は居ることが当たり前の存在となっている。選手同士が球団の垣根を越えて交流を持つように、彼らもまた横のつながりを大事にしている。

「西武のRisukeさんとかオリックスでやっていた平野智一さんとはよく話しする方です。ただ、今回の件で連絡を取り合ったりはしていないですね。しづらいわけではないけど、集まって話をしたところで何か違うような気もするので……」

 3月、無観客のオープン戦は現在の拠点の一つである東京でテレビ観戦していた。

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「すごく違和感はあります。PayPayドームの試合をテレビで見るのは変な感じだし、やっぱり静かでお客さんがいない球場というのは。やっぱりプロ野球ですから。表現が難しいけど、何のためにやっているんだろうって思っています。今はまだオープン戦だから、公式戦のために仕方ない部分もありますけど、公式戦でというのは考えづらい」

 この電話から数日後の3月9日、プロ野球公式戦の開幕延期が正式に決まった。DJツバサは自身のSNSでそれを伝えるニュースのリンクと共に、「そうですか……。いつまでのスケジュールをキャンセルしていいでしょうか……? そろそろ……生活することも危機だな……」と綴った。

無観客のスタンドに声を張り上げる虚しさ

 福岡PayPayドームでは3月10日の巨人とのオープン戦から選手登場曲やイニング間のBGMが再開されたことで、少なからず雰囲気が変わった。

 そして13日と14日の広島戦。ついにDJツバサが球場に戻ってくる。音響や映像などのスタジアム演出が公式戦でぶっつけ本番にならないように、テストを兼ねて通常どおりのオペレーションで試合を行うためだった。

「野球のオフシーズンも他の競技で場内DJなどをやっているので、声を出すことの不安はないけど、野球には野球の空気感や間があるからそこには慣れないといけないです」

 そのように意気込みを語っていたが、当然ながら無観客のスタンドに向かって声を張り上げるのはどこか虚しさを覚えるものがあった。

「スタジアムDJって球場を盛り上げるためにお客さんを巻き込んでいこうという橋渡しのような役割を担っていると思います。ファンの心を動かす役回りというか」

 プロ野球を球場で見たいファンがいる。スタンドから声の限りを張り上げて、贔屓のチームや心を捧げる選手を目いっぱい応援したいのだ。

 そして、選手たちだって全力プレーを見てもらいたいと切に思っている。

 球場にいつもの光景が戻るまで少し我慢が必要になるが、その日常が戻った時には感情のままに目一杯プロ野球を楽しもう。スタジアムDJはそんなファンの背中を響きのいい声で優しく押してくれるはずだ。

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