「うちの子のことは放ったらかしですね。よく道を踏み外さずに生きているなと」
東京都の公立小学校で教員をしている松原葵さん(仮名、40代)は、そう言って苦笑した。穏やかでよく通る声は、いかにも日々児童を相手にしている先生という印象だ。ただ、子どもたちに囲まれたその日常には、やはり小学生である自身の子と向き合う余裕はない。
松原さんの平日の勤務時間は、午前8時から午後10時。警備の都合上切り上げざるを得ないだけで、残った仕事をこなすために休日出勤することも多い。勤務校は決して特殊な事情のある学校ではなく、むしろ落ち着いた地域にあると捉えられているにも関わらず、だ。
ベテラン教師の休職も増えている
なぜそんなに忙しいのか。
「先生が子どもの成長全般を請け負わないといけないからです。学校に登校してこない子がいたら電話をして迎えに行き、地域でトラブルが起きたと通報があれば駆けつける。国は英語とかプログラミング教育とかどんどん仕事を増やすし、長時間クレームを言うような保護者もクラスに1人は必ずいる。あちこちから飛んでくる要求をすべて受け止めて管理して、真面目にやっている先生ほどバカを見るのが、学校というシステムなんです」
激務によって若手の同僚2人が病気休職しているが、他校を見渡すと「カリスマ先生のようなベテランの病休も増えている」と松原さんは指摘する。
こうした教員の状況は、松原さんの周囲に限った話ではない。
平均値で“過労死ライン”を超えている
2016年実施の教員勤務実態調査によると、月当たりの平均の時間外勤務は、小学校で約74時間(土日勤務を加えると約83時間)、中学校で約98時間(同約125時間)。平均値でも、過労死ラインである1ヶ月あたりの時間外勤務80時間を超えている。教員の精神疾患による病気休職はこの10年以上、毎年5000人前後で高止まりしている。
そして「ブラック労働」のイメージが浸透した結果、教員の志願者が減っている。