WHOも疑問視する感染状況
そもそも北朝鮮の住民は国内で通行証明書がなければ、自分の居住地から他の地域へ自由に移動する自由がないため、全国的に感染が拡大するのに時間がかかる可能性はある。それでも「感染者ゼロ」などということはあり得ないだろう。
WHO(世界保健機関)も、北朝鮮の経済事情と劣悪な医療施設を勘案して、北朝鮮の主張に疑問を持っている。WHOのシャピーク博士は、そもそも「感染確定の可否を判断するための資源(診断キットなど)が足りていない可能性もある」と指摘している。
北朝鮮は、WHOと国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)から検査装備や診断キットなどの支援を受けているが、「平壌とその周辺地域だけで使ったとしても診断キットが大きく不足しているだろう」(脱北者)との指摘もある。
現在も北朝鮮の高位幹部と連絡を取っているある脱北高官は、「北朝鮮では食糧不足が深刻で、昨年11月から飢餓に倒れる住民が続出していると聞いている。さらに今回の国境封鎖で、物価が上昇し、住民はさらに苦しめられている」と筆者に打ち明けた。
「新型コロナは南朝鮮が風船で送ってきた」
北朝鮮での感染者数や死者数については、具体的な数字を出した報道も出ている。
対北朝鮮専門メディアの「デイリーNK」は3月6日、軍部筋の話として、新型コロナウイルス感染で「軍医局から軍の最高司令部に『1、2月の死者が180人、隔離者が3700人』とする報告があった」と報じている。特に中国との国境に駐留する国境警備隊で死者が多かったという。
北朝鮮が感染状況を詳細に公開すれば、国際社会からさらなる支援も期待できるはずだ。
しかし現実には、北朝鮮の治安組織である国家保衛省が、「南朝鮮ではコロナウイルスを付けたカネやコメを風船やプラスチックの筒に詰めて北に送っている」などと宣伝工作を繰り広げているような状態だ(「朝鮮日報」4月3日付)。なんとしても金正恩体制が揺らぐ事態を避けたい指導部の気持ちが表れている。
世界中に蔓延した新型コロナウイルスは、金正恩政権にも相当の打撃を与えていることは間違いないようだ。