緊急事態宣言から、1週間が経過した。私は、たまに食料を調達に行く以外は外に出ず、家に引きこもっている。洗濯のときくらいしか使っていなかったベランダが好きになった。天気がいい日は、古い椅子を出して、ぼんやりする。いつも日焼け止めクリームや日傘で避けていた日光が、今は無性に恋しい。ベランダで空を見ているときが、一番ほっとする。
近所のコンビニは大体変わらず24時間やっていて、なるべく人が少ない時間にマスクをして食事を買いに行く。サンドイッチ、おにぎり、焼き鳥、サラダ。好物の納豆は、最近よく売り切れている。一番よく行くコンビニでは、レジと客の間に大きなビニールのカーテンのようなものが張られ、ビニール越しに、マスクをした店員さんに商品を差し出す。
薬局、スーパー、コンビニで働いている人たちは、毎日マスクはないか、トイレットペーパーはないかと聞かれ、疲弊している、というニュースを読んだ。だから感謝をもっと示したいけれど、マスクだと笑いかけても相手には見えない。
元から家でできる仕事である自分は幸運だ、と思う。友人は、自分も夫も会社が休みにならず、不安な中、子供を保育園に預けて、電車で会社に通っているという。彼女の働く会社では
想像していた以上に、
両親には会わないようにしているが、たまに、元気そうなメッセージが来てほっとする。
変わることも怖いが、今は変わらないことへの不安のほうが大きい。危機感はどんどん強まっているのに、変わることができないことが、今、一番苦しいことだと思う。もっと変わってほしいし、もっと感謝を伝えたい。
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村田沙耶香
小説家。1979年、千葉県生まれ。玉川大学文学部卒業。2003年「授乳」が第46回群像新人文学賞優秀作となりデビュー。09年『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞受賞。13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。16年『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。著書に『マウス』『星が吸う水』『生命式』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』などがある。