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「言い訳はするな」――鬼木の“本気の言葉”

――“鬼木語”だと、どんな言葉になりますか。

「いや、別に言葉をつくったりはしません。よくあるような言葉であってもいいと思うんです。でもとにかく僕としては本気で言う。素のまま、嘘をつかずに」

 

――本気の言葉とは。

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「たとえばアウェイでサガン鳥栖と戦った試合(7月8日)で前半、0-2で折り返したんです。4-1で勝利した浦和レッズ戦から中2日だったので、試合前から『いろんな言い訳をするな』と言ってきました。今まで上位チームに勝った次の試合で負けたり、フロンターレはそういうのが多かった。だからまず『言い訳するな』と。とはいえ相手を分析したり、これまでのウチの出来を考えたりしてもここで負けるとは本気で思わなかった。だからハーフタイムに『ひっくり返す自信あるよ。俺は本気で思っているよ』って、そういう話をしたんです」

――そうしたら後半に3点奪っての逆転劇でした。

「後半始まってまだ0-2の段階ですけど、僕は終盤に入って2-2に追いつくことを想定して、コーチとどうやって3点目を取ろうかっていう話をしていたんです」

――確かに、本気中の本気ですね。

「そうしたら一気に6分間で3点取ってしまって。短時間で逆転まで持っていくとは思いませんでしたけど、選手たちも本気でそう思ってくれたんだと思います。ほかにも選手たちに『俺は自信がある』とはっきり言った試合がいくつかあります。相手を分析するために試合の映像を見ると、堅そうだなって最初は思うんです。それがイメージを持ちながら2度、3度と見ていくと、あれ、いけそうだな、自分たちが崩れなければ勝てるなって。ACLでもホームの広州恒大戦とか結果は0-0でしたけど、『俺は自信があるから、信じてほしい』と伝えています」

アントラーズらしさとフロンターレらしさの違い

――鬼木さんは現役時代、鹿島でキャリアをスタートさせ、中盤のユーティリティープレーヤーとして計6シーズン、プレーしました。勝利に徹する鹿島イズムというのも、染みついていますか?

「あると思います。鹿島は試合の内容が今ひとつでも最終的には勝ってるみたいな試合が少なくなくて。相手が『鹿島あんまり強くないな』と言ってても、鹿島としては『あいつら勘違いしてるな』っていう雰囲気なんですよ。だから最後のところは絶対にやらせない。鹿島のせめぎ合いの強さは、勝ってきた自信から生まれていたと思います」

――そしてフロンターレではJFL時代からプレーする古参のOB。現役で計8年、育成・普及コーチ3年、トップコーチ7年と、このクラブに20年近くいることになります。フロンターレらしさ、というのは?

「歴史を振り返っても1-0で勝つよりは4-3で勝つとか、昔からそういうチームだったとは思います。等々力劇場という言葉もありますけど、プロである以上、やっぱり面白いサッカーを見せたい。だけど一方では勝利をしっかりとくっつけていかなければいけないと思っています。隙を見せず、逆に相手の隙を突きたいですよね」

 

――フロンターレは、まだJ1でタイトルがありません。内容も結果も妥協なくこだわるように仕向けているように見えます。

「一番はいいサッカーをすれば勝てるというふうにはしていきたい。ただ、サッカーは相手もあることなんで、いいサッカーをやらせてもらえないことだってある。そうなったときに、じゃあ負けちゃっていいのかと言ったら、そうじゃないサッカーでも勝てるようにはしたい。やっぱり勝利することで、もっと勝利を求めていくようになると思うんです。面白いサッカーで勝つし、たとえそうじゃないサッカーになっても勝つ。選手にはずっと『勝っていけばもっと強くなる』と言い続けています。そうやって本気で伝えていくしかないと思っています」

#2に続く)

写真=鈴木七絵/文藝春秋