昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2020/05/01

「グレー」だと明言できるだけの状況証拠は揃っている

《我々は(2つの)研究所の歴史を簡単に振り返り、この(新型)コロナウイルスがおそらく研究所から漏れ出たであろうことを提起した》

 そんな導入から始まる論文は、まず、当初広まっていた武漢市の海鮮市場が発生源とする説について、この海鮮市場で感染が広がる前に感染者が確認されていることに触れ、否定する。さらに、話題になっている武漢の病毒研究所のほかに、武漢市にもう一つある研究所の名前を挙げる。それが「武漢疾病予防管理センター」だ。

武漢 ©iStock.com

 実はこの第2の研究所はコウモリのコロナウイルスを研究している点では武漢ウイルス研究所と同じだが、安全性のレベルが2段階低い。しかも、当初発生源とされた海鮮市場からわずか280メートルしか離れていないのだ。

 それに加え、この研究所の研究員は採取してきたコウモリにかまれたり、尿をかけられたりしながらも研究を継続していることが、武勇伝のように2017年と2019年に現地報道で報じられているという。研究者は、こうした事故が起こるたびに感染を懸念して自主的に2週間隔離措置を取っていたという。

武漢の研究所でコウモリのコロナウイルスを研究していた ©iStock.com

 決定的な証拠はまだないが、「クロ」とはいえないまでも、グレーであるとは明言できるだけの状況証拠は揃っているといえる。

陰謀論が飛び交う段階を超え、真実は明らかになりつつある

 こうした言説が流れる中、ウイルスの発生源に関しては固く口を閉ざしてきた中国も反撃を試みてはいる。最初の反撃は中国外務省報道官が明らかにした「ウイルスは米軍の研究所から漏れたという説もある」というものだ。

 実は、これは冷戦時代のソ連のやり口の真似だ。1980年代にエイズを引き起こすHIVウイルスが確認されたとき、ソ連は米軍の細菌戦研究所から漏れたという説を広めた。嘘だったことが確定しているが、実際に米軍研究所がウイルスの不適切な取り扱いで処分されたこともあるから、陰謀論としての魅力は色あせていないということなのだろう。


成都のファーマーズマーケット。多くの住民があらゆる種類の野菜や食品を購入するために出掛ける ©iStock.com

 だが、そんな手垢のついた陰謀論を返してみても、これだけ証拠が集まってきた今では、信じることは難しい。発生源を突き止める作業は陰謀論が飛び交う段階を超え、天は中国側に不都合な方の説を真実として指し示しているようにみえる。

 現時点で、ウイルスの封じ込めに関しては統制主義の中国の方が欧米の自由主義国群に勝っているようにみえる。だが、陰謀論の花の下には、これまでみてきたように真実の根っ子が隠されている。その真実が根こそぎ白日の下にさらされたとき、それは自由主義が統制主義に反撃の狼煙を上げるときなのかもしれない。

その他の写真はこちらよりご覧ください。

この記事の写真(18枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー