夏も球児たちは聖地・甲子園球場の土を踏むことが出来なくなった。悔しいくらい爽やかな陽気となった今日も憧れの舞台はプロの技によって整えられている。プロ野球の開幕日もなかなか定まらない中、コンディショニングが大変なのは選手だけではない。舞台となる球場も開幕に向けて整えていく必要があるのだ。
“神整備”で知られる阪神園芸ですら、例年とは違った態勢で開幕を待っている。
「やっぱり使わないといい状態にならへんのよ」
「寂しいなぁ~」
電話口でそう漏らしたのは阪神園芸・甲子園施設部長の金沢健児さんだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で阪神タイガースは3月26日から活動を休止。甲子園球場の使用も禁止となったため、阪神園芸の職員も数日間の休みを強いられることとなった。しかし、グラウンドは生き物である。4月2日からグラウンド整備を再開。緊急事態宣言が発令された中でも選手たちが躍動する舞台を守り続けていた。自家用車や自転車、徒歩など公共交通機関を使わない方法で職員は通勤。15人のスタッフを甲子園、鳴尾浜それぞれ2班ずつ、あわせて4班にわけて作業を進めている。通常の人員では4班にわけると人手が足りないため、グラウンド整備部門を経験した他部署の職員が応援に来てくれている状況だ。
「土も風化してしまうというか……やっぱり使わないといい状態にならへんのよ」
本来なら、毎日のように選手たちが駆け回るグラウンド。風が当たったまま放っておくと固くなってしまうため、ぬか床のようにスパイクの刃でかき混ぜる方が柔らかい土になるという。タイガースのチーム練習が始まった今は土の状態は良くなってきたそうだが、ファールグラウンドや各ポジション間(三遊間や二遊間など)は今の練習ではそこまで選手の足が入らないため、阪神園芸の職員が少ない人数でいつも以上に深く丁寧に土を混ぜるように整備をして土のコンディションを保っている。
一方、芝生に関しては「使わない方が、傷みが少ない」という。しかし、水や栄養を与えなければ枯れてしまい、放っておくと髪の毛のように伸び放題になってしまう。綺麗な青々とした芝生を作るにはこまめな手入れが必要なのだ。シーズン中は毎日同じ状態にする必要があるため、芝刈りは毎日行われる。今は2日に1回の芝刈りだというが4月以降は芝生の成長が著しく、水分を豊富に与える必要がある。試合はなくとも、仕事は変わらない。阪神園芸のプロの技は毎日甲子園で発揮されている。