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「肺炎については絶対に言うな。デマを流すな」 中国当局に“口封じ”された武漢・女性医師の悲痛な証言――文藝春秋特選記事

発生当初、武漢では一体何が起きていたのか?

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「デマを流し、揉め事を引き起こすのはなぜだ?」

〈翌朝8時すぎ、勤務交代の引き継ぎも済んでいないうちに、「出頭せよ」との催促の電話が鳴った。そして「約談」(法的手続きによらない譴責、訓戒、警告)を受け、私は前代未聞の厳しい譴責を受けた。

「我々は会議に出席しても頭が上がらない。ある主任が我々の病院の艾とかいう医師を批判したからだ。専門家として、武漢市中心病院救急科主任として、無原則に組織の規律を無視し、デマを流し、揉め事を引き起こすのはなぜだ?」

 彼女の発言の一言一句そのままである。幹部はさらにこう指示した。

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「戻ったら、救急科200人以上のスタッフ全員にデマを流すなと言え。ウィーチャットやショートメールじゃだめだ。直接話すか、電話で伝えろ。だが肺炎については絶対に言うな。自分の旦那にも言うな……」

 私は唖然としてしまった。単に勤務上の怠慢を叱責されたのではない。武漢市の輝かしい発展が私一人によって頓挫したかのような譴責だった。私は絶望に陥った(以上、劉燕子訳)〉

武漢市内の病院には多くの患者が詰めかけた(1月25日撮影)  ©AFLO

アイ・フェン医師は「失踪」させられている

 これに続くアイ・フェン医師の証言はあまりに痛ましい。

 病院内ですらウイルスの情報が隠蔽された武漢市中心病院は、結果として、多数の医師と看護師の感染者と死者を出し、「医療崩壊」が生じ、まさに“この世の地獄絵”となった。

「本当に悔しい。こうなると初めから分かっていたら、譴責など気にかけずに……」「私は何度も何度も考えている。もし、時間を後戻りさせられれば、と」

 現在、アイ・フェン医師は「失踪」させられ、その一方で、すでに世界で大きく報じられた李文亮医師は、「烈士」として祭り上げられている。李医師の存在は、中国当局としても、もう隠しようがないからだが、こうした当局による祭り上げに最も怒りを覚えるのは、李医師本人のはずだ。

 武漢で最初に何が起きていたのか? 武漢でこれほど感染拡大したのはなぜか? アイ・フェン医師の告白は、このパンデミックの根源を知るための第一級の証言である。

出典:「文藝春秋」5月号

武漢・中国人女性医師の手記」の全文は「文藝春秋」5月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されている。

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全文掲載 中国政府に口封じされた武漢・中国人女性医師の手記
「肺炎については絶対に言うな。デマを流すな」 中国当局に“口封じ”された武漢・女性医師の悲痛な証言――文藝春秋特選記事

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