弁護団は「シナリオに沿った起訴」と反駁
これに対し、李副会長側の総勢26人から成る弁護団は、「シナリオに沿った起訴」と特別検察を非難し、嫌疑ひとつひとつに反駁して無罪を主張している。
韓国特別検察は第三者供賄を裏付ける証拠として、朴前大統領の発言資料と当時の首席秘書室長の手帳、青瓦台(大統領府)から見つかった資料の物証と証人の証言をあげている。
しかし、「いずれも決定的な証拠というには難しい」と首を傾げるのは前出の社会部記者だ。
「崔氏に賄賂を送り、大統領に口利きを頼んだという構図はとてもわかりやすい。しかし、物証として挙げている元秘書室長の手帳には金額だけで目的は記されていないといわれ、それと証人の証言だけでは決定的な証拠にはなり得ない。
それに、李副会長と朴前大統領との3回の面談も合併に口利きしたというには時期が合いません。2014年の面談は5分ほどと記録されているし、2015年に2回目に面談したのは合併後です。証拠として言われていることすべてが曖昧な印象なのです。
李副会長の賄賂供与が無罪となれば、崔氏の会社に送金したという財産国外逃避も単なる投資とみなされることになり、李副会長は無罪という結論に至るのですが……」
インターネットの書き込みには、「証拠も確かでないのにやり過ぎのパフォーマンス」という声が挙がるとともに「政権と財閥の癒着は許されない。罪を償うべき」とする声も多く見られる。
政経癒着こそが問われている
サムスンや財閥の経済的社会的支配力について研究、監視し、提言を続けてきた市民運動団体の参与連帯に所属し、「民主社会のための弁護士会」副会長でもある金南槿弁護士は「この裁判では政経癒着こそが問われている」と言う。
「財閥が時の政権に有利な扱いを求めて働きかける政経癒着は許されない。巨額の資金がサムスンから崔順実氏に流れました。大統領と親しかった崔氏に送金したということは大統領が関連していて、それは、前秘書室長が細かく記載していた手帳に書かれた金額が物語っている。少なくとも崔氏へ乗馬用の馬を提供したことは賄賂と見なされる可能性が高い」
李副会長は、結審公判で「私がいくら至らず、だめな人間でも韓国国民の老後資金である国民年金に損害を出してまで欲を出したというのはあまりにもひどい誤解だ」と訴え、また、53回に及んだ公判では、自身は崔順実氏母娘への送金や乗馬用の馬の提供についても知らなかったと通した。対して、李副会長と共に逮捕されたサムスングループの4人の幹部は、すべては自分たちの判断としている。
常識で考えれば、巨額の出資について総帥が知らないはずはないだろう。