無罪は出しにくい
しかし、刑事裁判は証拠によって判断されるべきもの。
冒頭の保守派の弁護士はこう嘆息する。
「第三者供賄は、そこに不正な請託があったか否かで、これがなければ罪にはならない。今回の裁判では、この不正な請託があったという部分が、請託後の部分から補われていて苦しい言い訳になっている。崔氏に送金して何を朴前大統領に頼んだかというのが抜け落ちている。特別検察の起訴状は48ページに及びました。嫌疑があってそれを裏付ける証拠が確実であれば起訴状は普通なら1~2ページ。それだけ、話を肉づけして推定を重ねていることが分かります。決定的な証拠に欠ける今回の裁判では李副会長は無罪の可能性が高い。しかし、その無罪が出しにくい状況にあるのです」
有・無罪いずれの判決がでても双方が控訴するとみられ、最高裁判所までいけば短くとも1年半はかかる。
また、たとえ、李副会長が最終的に無罪となっても総帥として復帰するまでには時間がかかるだろうといわれている。
今回の事実上の総帥の逮捕でサムスングループの経営を憂慮する声も出ていたが、サムスン電子の業績は絶好調(4月~6月営業利益が前年対比で72.9%増)で、「システムができていますから経営面では問題はなくとも、李副会長の不在は新規産業やM&Aなどの案件にとって支障になるといわれ、サムスンでは専門経営者を招聘するのではないかという話も囁かれ始めています」(前出記者)。
「財閥」の終焉
先の金弁護士は、「この裁判は新しい時代への“一石”を投じることになると思う」と話し、
「今まで財閥は法を犯しても政権によって守られてきました。しかし、それはあってはならないこと。李副会長が有罪となれば他の財閥も自粛し、政経癒着が解消される可能性も高まりますし、各財閥はそのグループ内で整理されて正常な経営の形になっていくでしょう」
前出の保守派の弁護士はこう言う。
「朴前大統領の弾劾認容理由には賄賂は含まれていませんから、この裁判の結果で弾劾の意味を問われることはありません。
朴前大統領を有罪にすることが目的であれば、逮捕は財閥のトップではなくグループの社長などの幹部だけでよかったはず。李副会長を逮捕すれば最強の弁護団がついてくることもわかっていたはずですし、ややもすれば『やり過ぎだ』と世論から批判を浴びる。
特別検察がそれでもあえてトップを逮捕したのは、朴前大統領を起訴することが目的ではなく、正しい資本主義を目指して『大韓民国』、つまりは、進歩系が韓国を経済的にも社会的にも支配している『巨悪の根源』とするサムスンを起訴することが目的だったのではないか、最近ではそんな考えが頭をよぎっています」
韓国メディアでは今回の裁判については「証拠に基づいた判決をせよ」という論調が目立つ。
韓国の人の「財閥」への思いは複雑だ。
「自分の子供は財閥に入れたいが、財閥は嫌い」とよく口にする。財閥の人間だけが得をしていて格差が広がり、また、財閥のために中小企業が育たないなど、財閥は「悪者扱い」されることも多い。
それが真実であってもなくても、そうした「雰囲気」が根強いのだ。
振り返れば、朴前大統領はそんな「雰囲気」を読みとって、就任当初、「公正性」を大々的に掲げて、「大企業に社会的に責任を果たさせるために法を執行する」と高らかに宣言した。
なんという皮肉な巡り合わせだろう。
この裁判により財閥の姿が変れば、韓国の人々の不満は解消され、社会も大きく変るのだろうか。
3度有罪となった李副会長の父親、李健熙会長はいずれも執行猶予がついたり、赦免されていた。
李副会長の第一審の判決は25日に出る予定だ。