昨年、AV業界に自分の居場所を求める4人の女性たちを描いた小説デビュー作『最低。』が若い女性の圧倒的な支持を集めた紗倉まなさん。第2作の『凹凸』は、いびつな絆で結びついた家族の姿を描き出す。執筆は今の自分ではない“もう1人の自分”をイメージするところから始まった。
「前作『最低。』ではAVをテーマにしてください、とリクエストされましたが、自由に題材を選べるなら私の心を一番書き写せる人物を主人公にしたいなと。そう思ったとき、いまの仕事をしていないもう1人の自分の姿がパッと浮かんだんです」
主人公の栞(しおり)は24歳で、紗倉さんと同い年。両親が結婚13年目にして第1子である紗倉さんを授かったことや、両親が離婚した時期など、著者自身の実人生と多くの部分で重なっている。自伝的な小説なのかと思いきや……。
「小説ですから書いてあることはほとんどフィクションです。ただ、自分に近い人物だったので、感情が溢れて客観的に描くのに苦労しました。女の子を主人公に決めて、メモを書き溜めていきましたが、そうするうちに彼女のことを描くには、その両親のことも描かなければ成り立たないことがわかってきました。そこで、私が本当に書きたかったテーマは『家族』だったのだと気づいたんです」
父の正幸(まさゆき)は栞が14歳のときに離婚し、愛人の幸子(ゆきこ) と新しい家庭を作る。母親の絹子(きぬこ)は栞に愛情を注ぎながらも、幸子のSNSをチェックすることがやめられず孤独を深めていく。その後成長して24歳になった栞は、妊娠と堕胎を繰り返すようになるが、それは子供を産み、育てるといういわゆる“普通の家族”への違和感からのことだった。
「私自身、家族を大事にしたいという気持ちはありますが、家族といえども他人だという意識もまた強くあるんです。最後は自分1人で生きるしかないのかなと。なので子供を産むってとんでもないことだと思ってしまうんです。産んだ子に命ある限り、80年以上分の試練を与えることになるんじゃないかと。私にそんな大それたことをする資格があるのかしらって(笑)」
全編を通して描かれるのは、母親になることへの違和感を始めとした女性としての生きづらさだ。その困難は父親という男性によってもたらされるのだが、また一方で父親は執着の対象でもある。